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 第58話:魔物討伐より先に。

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 城を出てルザハーツ家の馬車に乗り込んだ二人は屋敷の別邸へと向かう。
 その中でハリアスは確認がしたく問いかけた。
「ライツ様。マナ様があなたの運命の恋人であるというのは確かなのですか?」
 ライツは「ああ」と頷いて答える。
「神官長に下された神託はこうだ。『召喚された少女は、この国で一番【強き者】の【運命の恋人】である。二人の力を合わせれば、魔物を討伐することなど、容易いであろう』・・・・・・その【強き者】というのは俺のことだ。うぬぼれではなく、俺自身を鑑定すると、称号のところに【強き者】があるのだから間違いない」
「なるほど。安心しました」
 ライツがマナに向けるあの甘い表情。
 初めての恋に浮かれ、都合のいい思い込みが働いたのではないかと、少し不安だったのだ。
(運命の恋人か・・・・・・)
 一瞬笑みを浮かべたハリアスが、すぐに真面目な顔を作る。
「ですがライツ様。魔物の被害情報は各領地から聞こえてきます。今のところルザハーツ領はライツ様率いる騎士団の働きで、被害はほとんど出ていません。しかしだからこそ、他の領地から救いを求める声にも応えていかなくてはいけないと、」
「そう兄上が言っていたか?」
「はい」
 ライツの兄、リオルート・ルザハーツは、ルザハーツ公爵家の当主であり、ハリアスとは同じ年で学友だった。
 リオルートは信頼する友人のハリアスを弟の側近に付けたのだ。
 そのこともあり、ハリアスはこの兄弟間の伝令として動くことも多い。
「言いたいことはわかる。俺とマナの力を合わせれば、魔物討伐などたやすいという神のお言葉だ。期待もするだろう。だが、城で言った通り、俺はマナの希望を第一に考える。もしマナが討伐を拒んだとしても、俺一人でも魔物討伐は、これまで以上に頑張るつもりだ」
(マナの傍から離れたくはないが、その時は仕方ない・・・・・・)
「なんにせよ、領地に戻ったら魔物討伐より先に、マナにはこの世界で生きる上で必要なことを勉強してもらう。なんせマナのいた世界では、魔法が空想上のものという話だからな」


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