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クロワッサン 前編

第九話 馬

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「今宵は満月…月見日和ね…。」

「ギギィィ…。」

「アイ・ラヴ・ユー…アンド…」

「シュンッ!!!」

「グサッッッ!!!」

「バタンッ…」

「グッバイ…。」

 ……………

「ポンコツネキ!起きてください!!」

「バンッバンッ!」

 アスカがアユメを叩く。

「ぐがああああああ……」

「大変なんす!!朝礼でリサラ様が今日はどうしても参加するようにと!!なんでも殺人事件が起きたみたいで!!」

「ぐがっ!!」

「おー!さすがのネキも殺人事件となればいつも出席しない朝礼にも参加し…」

「ぐがあああああああ………」

「ポンコツネキーーーーッッッ!!!」

「アアアアアアアッッッッッ!!!誰だ!!!?何者だ!!!?」

「カチャッ!」

 アユメがアスカの叫び声に驚きアスカに向けて拳銃を構える。

「なんだよお前かよ~…おやすみ…ぐがあああ…」

「ネキッ!起きてください!!事件なんですってば!!」

「バンバンバン!!」

「…んあ?…事件…?………。」

 アユメが目を覚まして身体を起こす。

「カチャッ。」

 再び拳銃をアスカに向ける。

「おい、何でお前そんな理由で私を起こした?誰の差し金だ?」

「な…何を言ってるんすかネキ…ネキは凄く頭がキレるとこの間アスカに証明してくれたじゃないすか…。」

「それだけか?」

「あと…リサラ様がどういうわけか今回ばかりは朝礼に参加してほしいと言ってました…。」

「………」

「ネキ…?」

 アユメが静かに拳銃を降ろす。

「わかった。その前に…」

「…はい…?」

「一服させろ。」

「カチッ………」

「ネキ…禁煙…」

「うるせぇな!さっさとテキトーに理由つけて私は遅れるって伝えてこいよお前後輩だろうが口答えすんな!!」

「は…!はい!」

「バタンッ!」

 アスカは部屋を後にした。

「フゥー………。あいつ…殺人事件が起きたことで私が朝礼に参加するって思うってことは…私の正体に気づいてんじゃねーのか…?」

 アユメはスマホを開き操作する。

「いつもサボって出席しない私が異例中の異例でこのタイミングで朝礼に出席したら逆に不自然だろうがリサラ様よ。ところでそのリサラ様はどうやってアスカに『どうしても参加するように』と伝えたんだ?殺人事件なら安全確保のためというだけでも理由になるが死人が1人出たことでメイドを全員出席させその中から容疑者を絞り出すところまで持っていくつもりか?フゥー………。」

 アユメはスマホを横画面にする。

 スマホの画面内では何頭かの馬が人を乗せて走らせている動画が流れていた。

「………行け!!行け!!!私の1000万はお前に委ねられてるんだ!!!!お前が背負ってるのは私の夢なんだ!!!!行けーーーーッッッ!!!………」

「ガチャッ!!」

「何してんじゃポンコツメイドさっさと朝礼に参加しろやゴルァアアアアアアア!!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ1000万また負けたアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

「は!?1000万負けた!?…!!あなたが見てるその画面…まさか!」

 リサラはスマホをポケットから取り出してあるランキング表の画面を表示した。

「………うわあああああああああああああああ!!!3000万負けたあああああああああ!!!!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

「うわあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

 一方大広間では…

「アユメを直接連れて来るとかおっしゃってなかなか帰ってこないですねリサラ様…。」

「いつも朝礼に参加しないだらしないメイドなんですからリサラ様がきっと手を焼いてるに違いありません!」

 一方その頃…

「ちょっとポンコツメイド!なんで私があなたより金額で負けないといけないんですか!?しかもあなたの読みはかなりギリギリの敗北で私の読みは完敗ではありませんか!」

「いいかねリサラ君、ギャンブラーのノウハウを学ぶ上で重要なこと、それはギャンブルというのは前提として賭けさせる側が儲かる仕組みであることを忘れてはいけないという事だ。よって期待値は低いのだから自分の経済的に支障が出ない程度の娯楽として扱わなければならないのだよ。」

「な…なんですって…!それと『リサラ様』でしょーが!」

「それと競馬の場合はリスク分散と言って一つの馬に全額を賭けるのではなく過去の戦績、オッズから…」

 その頃大広間では…

「ええ!きっと今頃あの仕事の出来ないメイドはリサラ様がメイドとしての在り方や仕事のモチベーションが上がるノウハウを丁寧にご指導なさってるに違いありません!」

「ですがさすが毎朝朝礼に来ないというだけあってあのアユメとかいうメイドは手強いですね!ですがきっと過去にも仕事を出来なかったメイドを事例のお話をして勇気づければきっといつかは朝礼にもでられるようになるはずです!」

 一方その頃…

「ポンコツメイド!その配分だとリスクが高いんじゃないですか!?さっきのあなたのお話からすればこの賭け方は危険なはずです!」

「さすがはリサラ君、私がわざと悪い配分をした事に気づき指摘するとは君はなかなか優秀だ。それはちゃんと相手の話しを鵜呑みにせず、自分の中で相手に言われた内容を思考し、疑ってみること、そこまで気付くことさえできれば君はもう立派なギャンブラーだ。」

「だから『リサラ様』でしょうが!全く…!この私を試していたなんてポンコツメイドのくせに小生意気にも程があるわね…!」

 大広間では…

「ここまで長くなるということは恐らくリサラ様があの駄目なメイド、略してダメイドが一刻も早く一人前のメイドになるよう、敢えてダメイドの事例をリサラ様が演じてそれをあの本物のダメイドに指摘させてちゃんとリサラ様のお話を聞いているか、きっとリサラ様が試させているに違いありません!そうでもしないとこんなに時間がかかることに説明が…」

「あのぉ!!」

 アスカが先輩メイド達がリサラとアユメのやり取りを考察している最中に声をあげる。

 すると大広間は一気に静まり返る。

「私ぃ!様子見てきましょうかぁ!?」

「それは…だめだとリサラ様に言われたではありませんか!あなたも知ってるようにこの状況で1人になる事は危険ですし、あなたもアリバイがないので容疑者の1人である事に変わりはないんですよ!?」

「私犯人じゃないですぅ!!」

「…はぁ…?」

「アスカ犯人じゃないっすよ!!アスカはポンコツネキと部屋が同じでポンコツネキは昨晩徹夜でなんかスマホのデータみたいなのを見ながら色々メモを取っていたみたいなのでアスカが部屋を出ていたらポンコツネキが絶対気づいてるのでアリバイはあります!!事件が起きたのは昨晩だった可能性が高いんすよね!?」

「それは…確かにそうですけど今1人になるのは…」

「ここで皆さんがお互いを見張り合ってればれば大丈夫じゃないっすか!!そんじゃ行ってきますわぁ!!」

 その頃…

「できたわよポンコツメイド…。次の賭け金は500万にしておきます。それでこの配分…。どうですか!?」

「うーん…全然だねぇ…。」

「はぁ!?なんですってぇ!?」

「いや勝てる配分が分からないからギャンブルなんだろ人に答えを聞いて期待するなよな!答えなんて結果が出た後しか分からねーんだからぶわはははははは!!!!それに私が徹夜で過去のデータを漁って負けたものを付け焼き刃であなたが今予想を立てて配分したからってどうにもならないって!まあ精々楽しめる範囲で楽しむ事だねリサラ君っ!頑張りたまえよっ!ギャハハハハハハハッッッ!!!」

「ポンっ!」

 アユメがリサラに肩をそえた。

「徹夜!?あなたまさかその目の下のクマって…!…っていうか『リサラ様』でしょーが!」

「うん、お陰で今日はもう1歩も動けねーや!!はっはー!!!!!」

「ポーンーコーツーメーイードォォォォ………」

「………あい…?」

「どこにエネルギー使っとんじゃちゃんと仕事しろやオルアああああああああああああああ!!」

「ドカッ!!!バコッ!!!バキッ!!!」

「ぐへぇー………」

「リサラ様!!皆さまがお待ちですよ!!………ってポンコツネキーーーーッッッ!!!」

「アスカ!1人で行動してはいけないと言ったではありませんか!まあとりあえず無事ならいいです。このポンコツは本当にどうしようもないので私が無理矢理大広間にお連れしますからあなたは私のそばを離れないように!!アスカはこれを持ってください!!」

「わ!わかりました!!」

「ズルズルズルズルズルズル………」

 アユメは右手首をリサラに掴まれてそのまま床を引き摺られて大広間へと連れて行かれる。

 そしてリサラ達が大広間に付くとメイド達はその光景に驚きを隠せなかった。

「あ…あのポンコツが…」

「朝礼に…」

「…っていうか気を失ったままリサラ様に引き摺られて来ましたけど…。」

「…それに…寝間着ですよ…。あれはこのお屋敷で指定されたお召し物ではないですよね…。自前でしょうか…。」

「アスカがメイド服を持ってらっしゃいます…。」

「やっぱり!リサラ様のご丁寧な指導を受けたにも関わらずあまりにも反抗的だった所をリサラ様のご厚意で1人は危険だからと無理矢理にでもここにお連れになったんですよ!」

「それではこれで全員集まったという事で!1時間半も時間がおしてしまいましたが朝礼を始めさせていただきます!」

「はいっ!」

「今日どうしてもこのポンコツにも朝礼に参加していただいたのは他でもない、昨晩起きた殺人事件についてです!」

「…あれ…起きてるんでしょうか…?」

「目にクマが出来てますね…。寝てるんじゃないでしょうか…。」

 メイド達が足首を掴まれたまま仰向けになったアユメを見てコソコソと話す。

「そこ!マリーとミリーですね!私語を慎みなさい!」

「ご!ごめんなさいっ!」

 私語をしていたメイドの1人が謝る。

「(私達後ろの方でかなり小声で話してたのに気づかれてしまうなんてやっぱりリサラ様は油断も隙もない…。)」

 私語をしていたもう1人のメイドは心の中でそう思った。

「被害者はメイドの中でも中級程度の階級であった皆さまご存知のアヤネです。倒れていた場所は屋敷の表の庭です。遺体の第一目撃者はアヤネの直属の後輩であり部屋を共有しているシズエです。シズエ、どういう状況であったか説明して頂けませんか?」

「はい!あの…私が昨晩お仕事を終えて就寝に就こうとしたのですがお部屋に先輩の姿が見当たらなかったのです。先輩は私が仕事を終えて部屋に戻る頃にはいつも部屋にいらっしゃるのですがどういうわけか昨晩だけは姿が見当たらなかったのです。」

「ふぅ~ん…。」

「ネキ!起きていたんすか!」

「(アスカ!余計なことを言うな!私はまだ寝ていたいんだ!)」

「ポンコツメイド!起きてるならさっさとメイド服に着替えなさい!」

「………あーあ…。」


 次回 第十話 寝間着
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