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ドーナツ

第五話 正体

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「皆さま朝礼に参加してますね。それでは…って!またあのポンコツメイドの姿が見えないではないですか!一体どうしたんですか!?」

「リサラ様!それでしたらこのお屋敷にとってとっっっても大事なご用事があるとおっしゃってどこかにいらっしゃいます!」

「あのポンコツメイドに限ってそんな事はございません!全く!ご主人様が不在の中今日は大事な話がありますと言うのに!」

「あの…その事でしたら私が伝言しておきましょうか…。」

 1人の赤みがかった黒髪のツインテールのメイドが恐る恐る手をあげながら声を上げた。

 


「あなたは…ポンコツメイドよりも1人後に入ったアスカですね。あなたみたいな入りたての新人がしっかりと伝言なんて出来るんですか!?」

「は…はい…!しっかりとお伝えしておきます…!」

「全く!ではまずはあのポンコツメイドに必ず毎朝この大広間で朝礼に来ることをお伝え下さい!」

「はい!」

 ……………

「プハー………ここはあの偽物のご主人様の喫煙所ということだけあって確かに目立たねーやはっはーーーーーーッッッ!!!」

 ……………

「それよりもまずは、一番の新人はあなたですが、仕事のできなさからしてあいつが一番下っ端同然なんですから誰よりも早く起きてお屋敷の電気をつけるようにお伝え下さい!」

「はい!」

 ……………

「いやー、昨日は私の推しホストの『シュガー君』と『チョコレートトーク』でお話してる最中に寝落ちしちゃったからなー、おはようの連絡しねぇと♡はっはっはっはっはーーーーー!!!!!♡」

 ……………

「…以上が今日の朝礼です!そしてアスカ!くれぐれもあのポンコツメイドの耳にタコが出来るほどよーーーく伝えておきなさいっ!」

「はい!!わかりました!!」

 ……………

『ごめんねシュガー君…昨日はお仕事忙しくて疲れて寝落ちしちゃった…。怒って…ないかな…?』

 10分後…

「………なかなか返信こねぇな…。まさか最近ずっと屋敷にいてホスト通えてないから見限られちまったのかなぁー…フゥー………。」

「ピロンッ!」

「うおっほーーー♡きたきたきたぁぁぁーーーーーッッッ!!!」

『怒ってるわけないだろうアユメ。お前のそういう仕事熱心な所、好きだぞ。』

「うっはーーーーーッッッ♡たまんねぇぜこりゃーーーーー♡こういう時は…♡」

『そうやってシュガー君は他の女の子にも同じこと言っちゃうんでしょ…?』

「この独占欲の強い女が仕掛ける駆け引きで私は負け無しなんだってんだはっはっはーーのはーーーーッッッッッ!!!♡」

『そんなわけないだろ。俺はお前の事しか興味ねーよ。』

『本当に…?じゃあアユメの好きな所と…あとね…正直に直してほしい所教えてくれない…?アユメはシュガー君の理想の女でいたいの…。』

「他の女、すなわちライバルを出し抜くためのコツは貢いでもらえると思わせることだけではなく相手に心のどこかで『会いたい』と思わせることだアアアアアアア!!!ありもしない『好きな所』だけを無理矢理知恵を絞って吐かせる女は自分本位!だが敢えてここに『直してほしい所』という表現をおく!!『嫌いな所』との違いは今後の行く末がマイナスで止まるかどうかの違いだ!!行く先の将来の事を考えられない女は長続きしないのだふっははははははははははーーーーー!!!どうだ!!!この美少女探偵アユメちゃんのパーフェクトプランはー!!!?」

『好きな所は要領がいい、悪く言えばずる賢いところで直してほしいところはまず一番下っ端のメイドのお仕事をしてるなら誰よりも朝早く起きて屋敷の電気をつけることとちゃんと毎朝朝礼に出るところかな?』

「はっはっはーーーッッッ!!!なるほどなるほどーーーーーッッッ………はぁぁぁぁぁぁ?????」

「みつけたましたよ。ポンコツメイド。」

「………あれ…?…見つかっちゃいました…?」

「何しとんじゃこのボケナスがぁぁぁぁ!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアぁぁぁぁ!!!シュガー君とお話してましたぁああアアアアアアア!!!」

「はぁ?シュガー君…?…まさか…」

 リサラはスマホの『チョコレートトーク』を開いた。

「ちょっとポンコツメイド!スマホの画面見せなさい!」

「………へ…?」

「いいから見せなさいっつってんの!」

 アユメはリサラにスマホを奪われた。

「アアアアアアア私のシュガー君とのプライベートシークレットトークがアアアアアアアッッッ!!!」

 リサラはアユメのスマホ画面の話し相手の『シュガー』と書かれた名前のアイコンを見る。

 そのアイコンは円形の中に綺麗なプレーンシュガーのドーナッツが収まっていた。

 それを見てリサラは昨晩『チョコレートトーク』でリサラが話し合っていた相手と同じだと言う事がわかった。

「おいポンコツ。」

 リサラがスマホを地面に投げ捨てる。

「………はい…?」

「私のシュガー君に手ぇ出すなやゴルァああああああああああああああああ!!!」

 リサラがアユメの胸ぐらをつかむ。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁ?????」

「っつーかこの内容今朝私が朝礼で話てたことだよなぁ!?なんでこんなタイムリーでやり取りできてんだ!?なんか言ってみろやゴルァああああああ!!」

「あ…?朝礼で話した?…なるほど…。」

「何がなるほどじゃこのバカクソタレが!」

「てめぇの差し金かこの甘党ヤニカスクソ女がアアアアアアアッッッ!!!」

 アユメがリサラの胸ぐらをつかむ。

「何逆ギレしてんだテメェは!!相変わらずきたねぇ口の利き方しやがって!!『リサラ様』だろうがアアアアッッッ!!!」

「てめぇが!私のシュガー君にチクったんだろ!!!それでてめぇあれだろ!私を陥れてシュガー君を独り占めしようとしてんだろ!!!『チョコレートトーク』で私が仕事してないって言ったこと撤回しろやああああああッッッ!!!」

「オメーのシュガー君じゃねーし!!!?私のシュガー君だし!!!?それに私はシュガー君にオメーなんかの話はしねぇんだよ!!私とシュガー君の2人きりの場はポンコツなオメーのことを忘れられる至福の時間なんだよッッッ!!!」

「あ!?じゃあ誰なんだよ!!!?なんでシュガー君が私の私情こんなに知ってんだよ!?」

「知らねーよ!!」

「あん?待て、リサラ。」

 アユメが冷静になりリサラの胸ぐらを離す。

「『様』をつけろよ『様』を!!」

「お前朝礼でこの事を全員に話したんだよな?」

「あ!?さっきも言っただろうがよ!」

「まあ落ち着け相棒、ここは共闘と行こうじゃないか。」

「ポンッ!」

 アユメがリサラの肩に手を置く。

「何言ってんだおめぇ。」

「君が朝礼でこの事をメイド全員に話したと言う事はだ…」

「おん?」

「…まだわからないか…?君がシュガー君に私の私情を話したんじゃないだろう?」

「だからさっきも言ったがおめーの話なんか…っておい…」

「ようやく気づいたかね相棒。」

 リサラが手を離して朝礼での出来事を思い出す。

『あの…その事でしたら私が伝言しておきましょうか…。しっかりとお伝えしておきます…!』

「………」

「………」

「アスカアアアアアアアぁぁぁぁ!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッッッ!!!!!」

 ……………

「はい!わかりました!ありがとうございますナタネ様!ここの清掃は…」

「アスカアアアアアアアぁぁぁぁ!!!」

「キャーーーーーッッッ!!!」

「ちょっと面かせやごら!!オメェがアスカかゴルァ!!オメェがチクったのかぁぁぁぁ!!!?あんっ!?フゥー………。」

「た…煙草…!お屋敷内は禁煙のはずでは…!」

「んなこたぁ今はどうだっていいんだよぉ!?アスカちゃん??オメェが私のシュガー君に仕事してない事チクったのかって聞いてんだどたまぶち抜くぞゴルァ…」

「バコーーーーーンッッッ!!!バーーーーーンッッッ!!!」

 アユメがリサラに殴られてふっ飛ばされ壁にぶち当たった。

「ぞんなあ゙…リサラの姉貴…どうじで…」

「『リサラ様』だろうが!勘違いすんじゃねぇ!てめぇのシュガー君じゃねぇ…」

 リサラが親指を自分に向ける。

「私のシュガー君だ!!!」

「あの…リサラ様…」

「あん!?なんだ!?てめぇもまさかシュガー君にちょっかいを出そうっていうのか!?」

「いえ…その方は存じ上げないのですが…」

「だったら何だナタネ!はっきり言え!」

「あそこにカメラが…」

 ナタネと呼ばれたメイドが指を指した先には侵入者防犯用のカメラがしっかりとリサラを捉えていた。

「………」

「この事がもし不在中のご主人様に見つかったらと思いまして…」

「うわあああああああああああああ!!!そういう事はもっと早く言ええええええええええ!!!」

「メイド長のリサラ様なら屋敷の防犯カメラの位置は把握してると思いまして…」

「あんなところにあったか!?ちょっと!なんでもいいからちゃんと消しといて!」

「ご主人様のお部屋からでないと操作が…」

「ああああああ!!!今はご主人様がいないから部屋に入れないんだったあああああ!!!」

「ご主人様が…いない…あの偽物は一体どうやって…っていうかあの偽物はあれっきり姿を消した…。あの偽物の正体は…」

「ポンコツメイド!とにかく仕事に戻りなさい!」

「あれぇ…?シュガー君はぁ…?」

「その話は後できっちりケリをつけるわよ!」

 そう言ってリサラは自分の仕事の持ち場に戻った。

「あの…アユメ様…。」

「なにぃ~?」

 アスカがうつ伏せで倒れたアユメのもとにあゆみよって屈み込みアユメの耳元で何かを囁く。

「………」

「………は?」

 アスカはそれからナタネに言われた仕事に打ち込むのであった。


 次回 第六話 砂糖
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