漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋

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閑話 寒蝉 鳴く

2 ※後輩視点

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ただ焼くだけだと思っていたバーベキューは、毎年やってるらしい先輩たちの手慣れた連係プレーにより、生だったり固かったりすることもなくて、すごく美味しかった。

「ハヤシくん、目はもう大丈夫? ごめんね、ずっと玉ねぎやらせちゃって……」

ハヤシ先輩の姿見ないな、と思っていたら、台所の奥で延々ソース用のおろし玉ねぎと刻み玉ねぎを作っていたらしい。
その隣で、モモ先輩がトマトの皮むきとみじん切りとスライストマトを延々作ってたらしいから、たぶん、モモ先輩に玉ねぎやらせるのがかわいそうで代わったんだと思う。

「……、大丈夫だ、もう少しすれば止まると思うから……、……っ」

うん、もう最後は目を開くと空気すら沁みるんだよね……僕もお母さんの手伝いでやらされる時あるからすごく解る。
真新しいタオルで顔を押さえたまま、戻ってこれないハヤシ先輩の分はモモ先輩がしっかり確保してるので、たぶん大丈夫。
先輩たちの力作の美味しいサルサソースは、頑張っただけあってたっぷり量もあって、半分は取っておいて、明日のお昼の材料にするらしい。




そして、バーベキューコンロつきっきりのソノ先輩はすっかりバーベキュー奉行と化していた。

「……、航太、それまだ早い、触んな」

「え、でももう結構焼いたよ?ひっくり返して結構たったし」

「表面は美味そうに焼けてるように見えても、じっくり火を入れないと、切ったら中は生なんだよ。……お前、毎年やってるんだから、いい加減火加減おぼえろ」

言いながら、コンガリ美味しそうに焼けてる大ぶりのソーセージを一本、東原先輩のお皿に入れてるので、たぶん覚えられないのは、毎年そうやってソノ先輩が焼いてるからじゃないかな……。

「……ん、うんまい! ツキオカもこっちおいで、ちゃんと食ってる?」

後ろにいた僕に気づいた東原先輩が、こいこいと手招きしてくれる。
そして近寄った瞬間に、僕のお皿にもコンガリしたソーセージと醤油が塗られてよく焼けたトウモロコシを入れてもらった。

「あ、はい。 食べてます。 ……あ、有難うございます」

だけど、僕らにばっかり配ってたらソノ先輩、何も食べられないんじゃないかな。
思っていたら、グリルの隣のテーブルで東原先輩がソーセージを一口大に切って、せっせとソノ先輩の口に入れていた。
目の前で平然と食べたソノ先輩が、トングであちこち様子を見ながらこれも、と皿に入れていく。
あまりに阿吽の呼吸だから暫く見つめてしまって、逆に不思議そうに二人に見られてしまった。


なんというか、うん。
僕にも幼なじみの友人がいるけど、たぶん距離感が全然違う。
……ちょっと寂しくなったから、やっぱり後で友人と家に電話しようと思う。









食事の後、0時までをめいめいに仮眠を取ったり、カードゲームで遊んだりして過ごした。
出来るだけヒトが寝静まった深夜の方が明かりも減るし、写真も撮りやすいらしい。
ぞろぞろとみんなで出てきたキャンプ場は確かにシンと静かで、そのまま先輩たちが知ってるらしい絶景ポイントまで荷物を持って移動する。

「昔はここまでくるのはほぼ登山客だったし、観光客は大体昼に多かったから、もう少し早い内から動けたんだけどなー……よいしょ、と」

東原先輩が、三脚とカメラをセットしてファインダーを覗く。

「……どうだ?」

ノートパソコン片手に今日の星の位置を確認しながら、ソノ先輩が聞いている。

「……もうちょっと向こうかな……向こうだな、ん」

「そっち川近いからな、あんま夢中になって落ちるなよ」

「だいじょうぶだって、俺だって慣れてるもんねー……よし、ココ。露光時間30か40欲しいかな」

「今日そこまで気温下がらないから大丈夫だろ。長椅子と毛布持ってきたし。……じゃ、やるぞ」

もう一度ファインダーを覗いて、満足そうに頷くと改めてカメラをもって真剣に何か確認している。その隣で、ソノ先輩が小声で何かを読み上げていた。

なにしてるのかな、と後ろから二人をチラチラ見ていたら、ちょうどスケッチに良さそうな風景を探していたらしいモモ先輩が帰ってきた。

「ツキオカくんも気になるなら見てくるといいのに。……あー、でもあれは多分、なにやってるかわかんないよね」

「何かの調整ですか?」

「僕も詳しくはないんだけど、星空の写真撮るのにはカメラの調整自体とか正しい星の位置の計算が必要みたいで、あの二人はそれをやってるみたい。……小学生くらいから二人でこうして天体観測してたみたいだから、普段は不器用に見える航太君もすごくキレイな写真撮ってくれるよ。楽しみにしてて」

「はい。 ゆくゆくは僕も出来ますかね……」

僕も星は好きだけど、あんなにしっかりした装備と目的で見てたわけじゃない。
双眼鏡は持ってきたけど、ゆくゆく天文部として文化祭に出るってなったら、僕だと今やってるっていうことはできなさそうだ。不安が声に出ていたのか、モモ先輩が大丈夫、と優しく背を叩いてくれた。

「大丈夫だよ、その時その時で自分に出来るものを出せばいいんだから。……せっかくチェア出してくれてあるし、僕らもそっちで話そうか」

最初にみんなでわっと広げておいた簡易チェアの所に戻ると、すでにハヤシ先輩が毛布に包まってスヤスヤ寝息を立てている。それを見てモモ先輩がそっと笑った。

「多分いつもより気を張ってたと思うし、すごく頑張ってたから疲れたんだと思う。そっとしといてあげてね」

頷いて、空いた椅子二つに腰を下ろすと、本当に満天の星だ。
写真や動画で見るのも十分にキレイだけど、やっぱり星は実際に肉眼で見るのが一番好きだ。
家からや今まで出かけた先で見た時より、今日の空はすごい数の星が本当に降ってくるようで、思わず深くため息をついた。
空気が澄んでるって、夜に灯りがないってすごいんだなあ。

「ツキオカくんも疲れたらそのまま寝ちゃっても大丈夫だからね。ソノくんたち、どうせ夢中になって夜明けくらいまで頑張るだろうから」

「……あ、はい。 そういえば、モモ先輩たちは何で天文部に?」

チラチラと聞く感じだと、モモ先輩は本格的に絵を描いてるみたいだし、ハヤシ先輩は基本的に将棋にしか興味がなさそうなのに。

「あー、うん、僕らはねえ、最初は名前貸してただけなんだよね。友達だったから。でも、去年このキャンプ誘って貰って、画題としてもいい所だなあって思って。それに友達みんなとわいわい旅行できるって楽しいしね」

「あ、はい、それはすごく思いました。僕も友達とこうしたいなって」

「うん、来年はツキオカくんメインになるだろうし、お友達誘ってたくさん入部して貰うといいよ。ソノくんもこの部が続くと喜ぶと思う」

ニッコリ笑って、毛布をかけ直したモモ先輩は僕もちょっと寝ようかな、と横になったので、おやすみなさいと声をかけておく。
なんというか、想像してた上下関係の厳しい部活動じゃなく、場所だけ一緒で、みんながそれぞれ好きな事をしていて、それがとっても気楽で楽しい。





僕もこういうゆるい感じの部にしたいな。
友達がたくさん入ってくれたら、の話だけど。
夏休みが明けたら、ちょっと相談してみよう、なんて考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
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