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閑話 寒蝉 鳴く
1 ※後輩視点
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高校生活初めての夏休み、僕は部活動の一環で、先輩たちと一緒に長野県へキャンプに来ている。
天体観測をやるにふさわしく、空気がキレイで標高が高い所。
たまにニュースや旅行番組で見てはいたけど、自分がホントにここに来るとは思わなかった。
上高地、夏の北アルプスの入山口、つまりは河童橋のたもとに今はいる。
「……しかし、すっごい人ですねえ……」
いわゆる登山ウェアを着てリュックを背負った人たちがゾロゾロ、ひっきりなしに橋を渡っていく。
今はもう昼近くだから、逆に下りてくる人たちもいて、現状、どこもかしこも人で一杯だ。
隣でソノ先輩が苦笑いしながら、頷く。
初めてみた時は不愛想で冷たい感じの怖い先輩かな、と思ってたけど、うちの部の中で面倒見が一番いいのがソノ先輩だ。
「まあ、この時期はいつもこうだよ。……でもせっかく来たし、ぶらっと観光するにはいいんじゃないかと思って。人凄くたって、ここから見る山がキレイなのは変わんないしさ。 ……航太!モモ! こっち」
すっかり観光地化してるらしい場所だけあって、橋の周囲はホテルやカフェに事欠かず、ソフトクリームの幟を見つけた東原先輩が「買ってくる!」と一声叫んで飛んでってしまったのが、ぼくたちがここにいる原因だった。
ヒトがわらわらいるところで5人分の場所取りするのに、僕一人じゃ心細かったから、ソノ先輩が残ってくれたのはすごく助かった。
「いやー、あっちもすんごいヒト!とりあえず、ソフトとコーヒー、全員分買ってきたぞ!」
ニカッと笑って俺とソノ先輩に一つずつソフトクリームを渡してくれた東原先輩は、いそいそとソノ先輩の隣に陣取ると、ニコニコでソフトクリームを頬張っている。
その様子にため息ついて、テーブル備え付けのペーパーナプキンで、東原先輩のほっぺについたクリームをソノ先輩が拭っている。最初ビックリしたけどもう慣れた。
こうしてみると、ソノ先輩と東原先輩はなぜか似ている。
ソノ先輩が若干髪が長めで色が茶、東原先輩がベリショで髪色が真っ黒だから、色味も顔も表情も何もかも違うのに、並ぶとなんとなく似てるように見えるのが不思議だ。
背の高さは二人とも大体同じくらいなのかな。
たぶん背の順で並べると、モモ先輩<僕<ソノ先輩=東原先輩<ハヤシ先輩、な気がする。
考えてるうちにソフトが溶けそうになったので慌てて頬張っているうちに、ニコニコしたモモ先輩と寡黙なハヤシ先輩がアイスコーヒーもトレーで運んできてくれた。
「どう、ツキオカくん、ちょっと慣れてきた?」
モモ先輩が、ここにつくまでちょっと車酔い起こしかけていた僕の体調の心配をしてくれた。
たれめがちな丸い目と眉、くるっとした短い栗色の髪にちょっとだけポチャッとした体格で、すごく優しくて可愛い感じの先輩だけど、言うことはしっかりいうヒトだ。
「そうだな、さっきよりは顔色良さそうだ」
ちらと僕の顔を見て頷いたハヤシ先輩が、モモ先輩と自分の分を取って、ついでに僕にもコーヒーを配ってくれる。
そういえば、ハヤシ先輩も面倒見がいい方だと思う。
普段は大抵、将棋の棋譜ばかり眺めているけれど、モモ先輩が何かしようとすると先んじて用意してくれていたりするし、ぼくにもさり気なく手を貸してくれたりする。
さっきも車の中でぐったりしてた僕に酔い止めくれたのは、ハヤシ先輩だったし。
コーヒーの残りをトレーごとソノ先輩に渡すと、モモ先輩の隣、つまり僕の隣に座って、ハヤシ先輩がおっきくため息をついた。
「メシ、ここで食ってこうかと思ってたけど、無理っぽいぞ、ソノ。夕飯の予約もう一杯だって。……キャンプ、今年はどっちで予約してるんだ?」
「ああ、今年はツキオカいるからキャビンにした。バーベキュー今頼んどけば間に合うし、部屋で出来るから大丈夫だよ」
「え、俺テント立てるの結構練習してたのに!」
ご満悦でソフトクリームを食べ終わった東原先輩が子供みたいにほっぺを膨らませて抗議している。
「お前の出番は夜だろ。忘れずに三脚とカメラ持って来てるだろうな?」
間髪入れずにソノ先輩がその膨れた頬を突っついたので、東原先輩がぽしゅっとしおれた。
「だいじょぶ、もってきた! ……喋りづらい―、指やめろー」
大体この先輩たちはいつもコントみたいにじゃれ合ってて、すごく楽しそうだ。
モモ先輩とハヤシ先輩もなんだかんだで仲がいいので、そうすると僕一人だけポツンと残る感じになって、せっかく入った部活なのにすこし部外者感がある。
今日は来なかったって言う先輩も一人いるらしいけど、そのヒトも先輩たちと同じクラスらしいから、こんな感じで僕みたいな部外者感があるのかな。
やっぱり、僕も友達と一緒にこの天文部に入りたかった。
そうしたら、先輩たちもやさしくて、いい部活に入れてよかった、みたいな話も出来たのに。
今ごろはたぶん強化合宿に参加してるのかな。
あとで連絡入れておこうと思いながら、僕は良く冷えたコーヒーを一口飲んだ。
先輩たちが毎年使っているっていうキャンプ場は、テント場以外にコテージもいくつかあって、さっきの橋からも近かった。
ここから見る北アルプスはくっきり青い夏空に浮かぶようで、すごい迫力がある。
モモ先輩は毎年、ここでスケッチをして秋の文化祭に水彩画を出品しているらしい。
すごくキレイな絵だって事を、本人じゃなくなぜかハヤシ先輩が力説している。
天文部としては、ここで取った星空の写真の展示と、写真を元に精巧に作ったプラネタリウムの展示を文化祭でやるんだ、と聞いてちょっとワクワクしていたら、東原先輩に気の毒そうに頭を撫でられた。
「……そうだよな、まだやったことないから実際の作業知らないよな……。可哀想に……」
「こら、ツキオカに変なこと吹き込むな。ノルマ倍にするぞ」
ヨシヨシと撫でる頭の上の手を、ソノ先輩がペッと避ける。
そして入りそうだったコント劇を、パンパンとモモ先輩が手を叩いて止めてくれた。
「はい、遊んでる余裕ないよ、そこの二人。航太くんはフロント行ってバーベキューの素材貰って来て。ソノくんは炭おこし。 ツキオカくんは初めてだし、今日はお客さんだから、そこの座布団座ってゆっくりしてて」
「あ、でも僕も何か手伝います!」
「ううん、大丈夫、バーベキュー素材はちゃんと切ってくれてあるし、他の準備は出来てるからあとは焼くだけなんだ。 ……ソノくん、他にツキオカくんに手伝って貰いたいことある?」
バーベキューコンロの上でさっそく着火剤と備長炭と薪の調整をしようとしていたソノ先輩が、モモ先輩の声に一つ頷いて、自分の荷物から星座盤を出して僕に渡してくれた。
「パソコン持って来てるから、正しい座標はシミュレーションソフトで出すけど、その星座盤での割り出しも結構勉強になるからな。今回は登らないけど、あの山登ったときなんか自力で割り出せるようになってると便利だから」
せっかくだから勉強しとくといいよ、と先輩二人が優しく笑ってくれたので、頷いて一度ぐるりと回してみる。僕も家に一つあるけど、僕のと違ってすごく立体的になっていて場所の誤差が修正できるようになっていた。
計算に使ったらしいペンか鉛筆の跡みたいなのもあって、すごく使い込まれている。
そのまましばらく見ていたら、やっぱりこの部に入って良かった、と思えた。
今はまだ、お客さんだけど。
きっとちゃんと仲良くなって、当たり前みたいに手伝ったり準備できるようになって、友人にも「プラネタリウムづくり大変だった」なんて愚痴ったりできるようになるんだ。
楽しみだな、と思って回した星座の座標はちょうど窓から見える空と同じだった。
天体観測をやるにふさわしく、空気がキレイで標高が高い所。
たまにニュースや旅行番組で見てはいたけど、自分がホントにここに来るとは思わなかった。
上高地、夏の北アルプスの入山口、つまりは河童橋のたもとに今はいる。
「……しかし、すっごい人ですねえ……」
いわゆる登山ウェアを着てリュックを背負った人たちがゾロゾロ、ひっきりなしに橋を渡っていく。
今はもう昼近くだから、逆に下りてくる人たちもいて、現状、どこもかしこも人で一杯だ。
隣でソノ先輩が苦笑いしながら、頷く。
初めてみた時は不愛想で冷たい感じの怖い先輩かな、と思ってたけど、うちの部の中で面倒見が一番いいのがソノ先輩だ。
「まあ、この時期はいつもこうだよ。……でもせっかく来たし、ぶらっと観光するにはいいんじゃないかと思って。人凄くたって、ここから見る山がキレイなのは変わんないしさ。 ……航太!モモ! こっち」
すっかり観光地化してるらしい場所だけあって、橋の周囲はホテルやカフェに事欠かず、ソフトクリームの幟を見つけた東原先輩が「買ってくる!」と一声叫んで飛んでってしまったのが、ぼくたちがここにいる原因だった。
ヒトがわらわらいるところで5人分の場所取りするのに、僕一人じゃ心細かったから、ソノ先輩が残ってくれたのはすごく助かった。
「いやー、あっちもすんごいヒト!とりあえず、ソフトとコーヒー、全員分買ってきたぞ!」
ニカッと笑って俺とソノ先輩に一つずつソフトクリームを渡してくれた東原先輩は、いそいそとソノ先輩の隣に陣取ると、ニコニコでソフトクリームを頬張っている。
その様子にため息ついて、テーブル備え付けのペーパーナプキンで、東原先輩のほっぺについたクリームをソノ先輩が拭っている。最初ビックリしたけどもう慣れた。
こうしてみると、ソノ先輩と東原先輩はなぜか似ている。
ソノ先輩が若干髪が長めで色が茶、東原先輩がベリショで髪色が真っ黒だから、色味も顔も表情も何もかも違うのに、並ぶとなんとなく似てるように見えるのが不思議だ。
背の高さは二人とも大体同じくらいなのかな。
たぶん背の順で並べると、モモ先輩<僕<ソノ先輩=東原先輩<ハヤシ先輩、な気がする。
考えてるうちにソフトが溶けそうになったので慌てて頬張っているうちに、ニコニコしたモモ先輩と寡黙なハヤシ先輩がアイスコーヒーもトレーで運んできてくれた。
「どう、ツキオカくん、ちょっと慣れてきた?」
モモ先輩が、ここにつくまでちょっと車酔い起こしかけていた僕の体調の心配をしてくれた。
たれめがちな丸い目と眉、くるっとした短い栗色の髪にちょっとだけポチャッとした体格で、すごく優しくて可愛い感じの先輩だけど、言うことはしっかりいうヒトだ。
「そうだな、さっきよりは顔色良さそうだ」
ちらと僕の顔を見て頷いたハヤシ先輩が、モモ先輩と自分の分を取って、ついでに僕にもコーヒーを配ってくれる。
そういえば、ハヤシ先輩も面倒見がいい方だと思う。
普段は大抵、将棋の棋譜ばかり眺めているけれど、モモ先輩が何かしようとすると先んじて用意してくれていたりするし、ぼくにもさり気なく手を貸してくれたりする。
さっきも車の中でぐったりしてた僕に酔い止めくれたのは、ハヤシ先輩だったし。
コーヒーの残りをトレーごとソノ先輩に渡すと、モモ先輩の隣、つまり僕の隣に座って、ハヤシ先輩がおっきくため息をついた。
「メシ、ここで食ってこうかと思ってたけど、無理っぽいぞ、ソノ。夕飯の予約もう一杯だって。……キャンプ、今年はどっちで予約してるんだ?」
「ああ、今年はツキオカいるからキャビンにした。バーベキュー今頼んどけば間に合うし、部屋で出来るから大丈夫だよ」
「え、俺テント立てるの結構練習してたのに!」
ご満悦でソフトクリームを食べ終わった東原先輩が子供みたいにほっぺを膨らませて抗議している。
「お前の出番は夜だろ。忘れずに三脚とカメラ持って来てるだろうな?」
間髪入れずにソノ先輩がその膨れた頬を突っついたので、東原先輩がぽしゅっとしおれた。
「だいじょぶ、もってきた! ……喋りづらい―、指やめろー」
大体この先輩たちはいつもコントみたいにじゃれ合ってて、すごく楽しそうだ。
モモ先輩とハヤシ先輩もなんだかんだで仲がいいので、そうすると僕一人だけポツンと残る感じになって、せっかく入った部活なのにすこし部外者感がある。
今日は来なかったって言う先輩も一人いるらしいけど、そのヒトも先輩たちと同じクラスらしいから、こんな感じで僕みたいな部外者感があるのかな。
やっぱり、僕も友達と一緒にこの天文部に入りたかった。
そうしたら、先輩たちもやさしくて、いい部活に入れてよかった、みたいな話も出来たのに。
今ごろはたぶん強化合宿に参加してるのかな。
あとで連絡入れておこうと思いながら、僕は良く冷えたコーヒーを一口飲んだ。
先輩たちが毎年使っているっていうキャンプ場は、テント場以外にコテージもいくつかあって、さっきの橋からも近かった。
ここから見る北アルプスはくっきり青い夏空に浮かぶようで、すごい迫力がある。
モモ先輩は毎年、ここでスケッチをして秋の文化祭に水彩画を出品しているらしい。
すごくキレイな絵だって事を、本人じゃなくなぜかハヤシ先輩が力説している。
天文部としては、ここで取った星空の写真の展示と、写真を元に精巧に作ったプラネタリウムの展示を文化祭でやるんだ、と聞いてちょっとワクワクしていたら、東原先輩に気の毒そうに頭を撫でられた。
「……そうだよな、まだやったことないから実際の作業知らないよな……。可哀想に……」
「こら、ツキオカに変なこと吹き込むな。ノルマ倍にするぞ」
ヨシヨシと撫でる頭の上の手を、ソノ先輩がペッと避ける。
そして入りそうだったコント劇を、パンパンとモモ先輩が手を叩いて止めてくれた。
「はい、遊んでる余裕ないよ、そこの二人。航太くんはフロント行ってバーベキューの素材貰って来て。ソノくんは炭おこし。 ツキオカくんは初めてだし、今日はお客さんだから、そこの座布団座ってゆっくりしてて」
「あ、でも僕も何か手伝います!」
「ううん、大丈夫、バーベキュー素材はちゃんと切ってくれてあるし、他の準備は出来てるからあとは焼くだけなんだ。 ……ソノくん、他にツキオカくんに手伝って貰いたいことある?」
バーベキューコンロの上でさっそく着火剤と備長炭と薪の調整をしようとしていたソノ先輩が、モモ先輩の声に一つ頷いて、自分の荷物から星座盤を出して僕に渡してくれた。
「パソコン持って来てるから、正しい座標はシミュレーションソフトで出すけど、その星座盤での割り出しも結構勉強になるからな。今回は登らないけど、あの山登ったときなんか自力で割り出せるようになってると便利だから」
せっかくだから勉強しとくといいよ、と先輩二人が優しく笑ってくれたので、頷いて一度ぐるりと回してみる。僕も家に一つあるけど、僕のと違ってすごく立体的になっていて場所の誤差が修正できるようになっていた。
計算に使ったらしいペンか鉛筆の跡みたいなのもあって、すごく使い込まれている。
そのまましばらく見ていたら、やっぱりこの部に入って良かった、と思えた。
今はまだ、お客さんだけど。
きっとちゃんと仲良くなって、当たり前みたいに手伝ったり準備できるようになって、友人にも「プラネタリウムづくり大変だった」なんて愚痴ったりできるようになるんだ。
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