蛍火

真田晃

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「肩を持つようで悪ぃが……
溝口は、お前に何の危害も加えてねぇんじゃねぇか?」
「……ぇ」

核心に迫った台詞に、ドクン……と胸が大きな鼓動を打つ。

「そもそも、お前を誘拐する気でいたンなら、死体の転がったあの小屋へなんか、わざわざ連れていかねぇよ。
ましてや、そこで手出ししようなんざ……思わねぇだろ」
「……」

箱から煙草を一本取り出すと、直ぐには火を付けず、吸い口を下にしてテーブルにトントンと数回音を立てて落とす。

「確かに溝口は、初恋を拗らせた小児性愛者のクズだ。
……けどよォ。クズならどんな罪を着せてもいい、なんて訳はねぇよな」
「……」

解るだろ、お前なら──横峰の眼が、僕を試すような目付きに変わる。
でもそれは、同時に僕を責め立てているようにも見えて……

「お前が真実を話さねぇ限り、真相は藪の中。……警察が作り上げたシナリオ通りの結末になっちまうんだゼ」
「……」

じゃあ……、どうすればいいんだよ。
これ以上、何をどう話せっていうんだ。
……まるで僕が、本当の事を話さないせいだって、言い方じゃないか……

身体が、震える。
心に重くのし掛かる、罪悪感。
ぞわぞわとした感覚が胃の底から圧し上がり、不安と不快感が覆い被さるように襲う。


「もし最初の証言通り、『一人』でいたんだとしたら……
お前は何の為に、あの小屋へ行ったんだ」

鋭く見下げる双眼。責め立てる視線。
片端を吊り上げた口から発せられる、情の欠片もない台詞。息と共に吐き出されるヤニ臭さが、更に嫌悪を増す。
胸元を片手で押さえ、少しだけ背中を丸めたまま、男を見上げる。

「……」

この状況に、押し潰されそう。
……呼吸が……苦しい……

「ちゃんと、正直に答えろ。
あの日のお前の行動を、最初から最後まで、包み隠さず……全部──」
「……」

尋問とも、恐喝とも取れるその態度に、恐怖心が膨れ上がり……
指先が、唇が、震えて止まらない──


はぁ……はぁ……
柔く瞬きをすれば、眼の縁に溜まっていた涙が零れ……頬を伝う。



──ドンッ、


「止めろ!」

テーブルを叩く音に、心臓が飛び上がる。
見れば、腰を浮かせた小山内先生が、吊り上がった眼を潤ませ、横峰を睨みつけていた。

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