36 / 71
36.飼育小屋 *
しおりを挟む「……」
無力さなら、僕も同じだ。
こんなに近くにいながら……何もできない。
体感的には、恐らく一時間も経っていない……と思う。
窓の外が明るくなって暗くなるまでの間、全裸のまま手足を縛られた白川は、動かなかった。
酷く蒸し暑い部屋。
当たり前だ。真夏なんだから。
天井に程近い小窓は幾つか開いているものの、磨りガラスの大窓は全て閉まっている。
他に暑さを凌げそうなものといえば……うちわとクーラーボックス。中に冷たい飲み物でもあるんだろう。けど、後ろ手で縛られてる白川が、自由に開閉できる筈がない。
滴る汗を手の甲で拭い、未だここから動けないもどかしさを感じながら、白川の様子をじっと見つめる。
「……、はぁ……はぁ、」
生気のない表情。
時折咳き込み、床に散らばる嘔吐物。
近くには、昨夜買った手付かずの唐揚げ弁当。
キィ……
小屋のドアが開き、人影が部屋の中へと伸びる。
「……ただいま、光」
「……」
「随分暑いな……」
のんびりと呟きながら、徐に取り出したハンカチで額や首元を拭き、床に転がっている白川に視線をやる。
「なんだ……全然食べてないのか」
──はぁ、?!
馬鹿なのか、コイツ。
こんな状況で、食べられる訳ないだろ。
それに……こんな蒸し暑い小屋に長時間放置なんてしたら……
「光は、僕がいないと……何にもできないんだなぁ……」
しゃがんで両膝を床につき、白川の首の下に腕を通すと、上体を膝の高さまで起こす。そして、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、白川の口元を拭う。
「……」
虚ろな瞳が、力無く教師を捕らえる。
そこに、何の感情も見受けられない。
「保冷剤を追加で幾つか。それと、カップのかき氷をお土産に買ってきたんだ。……後で一緒に食べよう」
「……」
穏やかな声で言いながら、使ったハンカチで床の嘔吐物を拭い取る。
クーラーボックスを開け、持ってきたものと引き換えに冷えた濡れタオルを取り出し、白川の額や首元に当てる。
「……」
それでも。
白川の生気は戻らず、力無く瞬きをひとつするだけ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
『手紙を書いて、君に送るよ』
葉月
BL
俺(晶《あきら》)には、その人のことを考えると、心が震え、泣きたくなるほど好きな人がいる。
でも、その人が…。
先輩が想いを寄せるのは俺じゃない。
その人が想いを寄せているのは、俺の幼なじみの薫。
だけど、それでもいいんだ。
先輩と薫が幸せで、俺が2人のそばにいられるのなら。
だが7月5日。
晶の誕生日に事件がおこり…
そこから狂い始めた歯車。
『俺たちってさ…、付き合ってたのか?』
記憶を無くした先輩の問いかけに、俺は
『はい、俺、先輩の恋人です』
嘘をついた。
晶がついた嘘の行方は……
表紙の素敵なイラストは大好き絵師様、『七瀬』様に描いていただきました!!
少し長めの短編(?)を書くのは初めてで、ドキドキしていますが、読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします(*´˘`*)♡
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
共に行く者【BL風・ホラー/オカルト】
hosimure
BL
オレ、南條(なんじょう)和城(かずしろ)は仲の良い同級生たちと、グループとして一緒にいた。
特に仲が良かったのは、幼馴染の角汰(かくた)孝一(こういち)。
温厚で控え目だが、本当は頑固で真っ直ぐなヤツだ。
しかし最近、1人の女の子がグループに入ってきたことにより、グループ内の雰囲気がおかしくなった。
これはどうするべきか…。
センパイとは恋しませんっ!
こすもす
BL
高校一年生の小峰 雫は、生徒会長の明るい高橋先輩が大好き。
目に留めてもらうためにわざと遅刻をしそうになったり落し物をしたり、それはもう必死。
自分の気持ちを抑えるのに限界が来た雫は、ついに告白を決意するが、間違えて高橋先輩の親友の聖(ひじり)先輩にしてしまう。
聖は雫の告白を何故かすんなりと受け入れ、お付き合いをする羽目に。間違えたとは言い出せないまま、聖の家にお邪魔することになってしまいーー?
おバカな雫の恋の行方は。
☆アルファさんは初心者ですがよろしくお願いします(*´∀`)フジョッシーでも更新しています。
☆コメディ要素あり。拙い文章ですが、読者様に楽しんで頂きたいと思いながら書いています。暖かい目で見てくださると嬉しいです♡
☆今更自作の表紙が恥ずかしくなってしまったのでちょっと変えましたw
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる