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31.
しおりを挟む二人が向かったのは、公園から離れた場所にある、田んぼのあぜ道。
僕が祭りの本番の夜、白川を連れ出した場所だ。
でも、神輿は確か……公園脇にある神社の境内に収められている筈。
ぽぅ……
ひとつ、ふたつ、
次々と現れて舞上がる、柔らかで儚い黄緑色の光。
その光を浴びた白川の髪が、銀色へと変化していく。
「……白川」
そう呼びかけると、流し目をした白川が意味深に微笑む。
それまでの、不安げで頼りなく、小さく脅えていた白川は、もういない。
あるのは──美しく妖艶でありながら、何処か異質な雰囲気を放つ、転校生の白川。
「……」
腕で額の汗を拭う。
ごくりとツバを飲み下し、その雰囲気にのまれそうになるのを堪えながら後を追う。
やがて辿り着いたのは、雑木林にある獣道と呼べる程の細い廃道。その入り口前に立つと、白川は何の躊躇も無く足を踏み入れる。
「……」
自分の腰よりも高い雑草の向こうに広がる、闇、闇、闇──
それはまるで、白川の亡霊に取り憑かれた……僕の行く末のよう。
懐中電灯などない。
白川に寄り添って飛ぶ蛍光を頼りに、ただ進むだけ。
生命力の強い雑草を掻き分け、奥へと進む。
夜露に濡れた葉や虫が、汗ばんだ肌に触れて気持ち悪い。
……はぁ、はぁ……
一体、何処まで行くというんだろう。
この場所を、あの教師と白川は……通ったのだろうか。
……はぁ、はぁ、
片腕で額の汗を拭いながら、導かれる様に白川の後をついていく。
白川を取り巻く、蛍のように。
やがて少し拓けた場所に出ると、蔦の蔓延った小屋が見えた。
「……これ、は」
下部に苔の生えた、木戸。
僕の顔の横を通り過ぎ、ゆらゆらと揺らめきながら、その扉に向かって飛んでいく蛍火。
「……」
震える指先。
キュッと握り締めた後、近付いた扉のノブに手を掛ける。
*
パシャ、パシャ……
獣道の入り口に立つ、数人の警官。
夜空をも飲み込もうとする、鬱蒼とした雑木林の影。
その闇に向かって、規則的に回りながら一直線に光を放つ、赤いパトランプ。
「……君は、こっち」
黄色いテープの向こうには、既にジャーナリストの姿もあり……僕に向かってフラッシュを焚きながら何か叫んでいた。
腕を引かれながら、パトカーの後部座席に座る。
「……」
一体、何が起きたのか……解らない。
全ては現実で、現実ではない感覚。
天井のライトが点き、運転席と助手席にいる警官が振り返って僕を見る。
……何か、話してる。ぼんやりとくぐもった声で。スローモーションのように。
その二人の警官の間に見える、ルームミラー。
そこに映る、一人の少年。
「──っ、!」
その瞬間──僕の心に、衝撃が走った。
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