蛍火

真田晃

文字の大きさ
上 下
31 / 71

31.

しおりを挟む


二人が向かったのは、公園から離れた場所にある、田んぼのあぜ道。
僕が祭りの本番の夜、白川を連れ出した場所だ。
でも、神輿は確か……公園脇にある神社の境内に収められている筈。



ぽぅ……

ひとつ、ふたつ、
次々と現れて舞上がる、柔らかで儚い黄緑色の光。
その光を浴びた白川の髪が、銀色へと変化していく。

「……白川」

そう呼びかけると、流し目をした白川が意味深に微笑む。

それまでの、不安げで頼りなく、小さく脅えていた白川は、もういない。
あるのは──美しく妖艶でありながら、何処か異質な雰囲気を放つ、転校生の白川。

「……」

腕で額の汗を拭う。
ごくりとツバを飲み下し、その雰囲気にのまれそうになるのを堪えながら後を追う。

やがて辿り着いたのは、雑木林にある獣道と呼べる程の細い廃道。その入り口前に立つと、白川は何の躊躇も無く足を踏み入れる。

「……」

自分の腰よりも高い雑草の向こうに広がる、闇、闇、闇──
それはまるで、白川の亡霊に取り憑かれた……僕の行く末のよう。

懐中電灯などない。
白川に寄り添って飛ぶ蛍光を頼りに、ただ進むだけ。

生命力の強い雑草を掻き分け、奥へと進む。
夜露に濡れた葉や虫が、汗ばんだ肌に触れて気持ち悪い。


……はぁ、はぁ……

一体、何処まで行くというんだろう。
この場所を、あの教師と白川は……通ったのだろうか。

……はぁ、はぁ、

片腕で額の汗を拭いながら、導かれる様に白川の後をついていく。
白川を取り巻く、蛍のように。



やがて少し拓けた場所に出ると、蔦の蔓延った小屋が見えた。

「……これ、は」

下部に苔の生えた、木戸。
僕の顔の横を通り過ぎ、ゆらゆらと揺らめきながら、その扉に向かって飛んでいく蛍火。

「……」

震える指先。
キュッと握り締めた後、近付いた扉のノブに手を掛ける。







パシャ、パシャ……

獣道の入り口に立つ、数人の警官。
夜空をも飲み込もうとする、鬱蒼とした雑木林の影。
その闇に向かって、規則的に回りながら一直線に光を放つ、赤いパトランプ。

「……君は、こっち」

黄色いテープの向こうには、既にジャーナリストの姿もあり……僕に向かってフラッシュを焚きながら何か叫んでいた。


腕を引かれながら、パトカーの後部座席に座る。

「……」

一体、何が起きたのか……解らない。
全ては現実で、現実ではない感覚。
天井のライトが点き、運転席と助手席にいる警官が振り返って僕を見る。
……何か、話してる。ぼんやりとくぐもった声で。スローモーションのように。

その二人の警官の間に見える、ルームミラー。
そこに映る、一人の少年。


「──っ、!」


その瞬間──僕の心に、衝撃が走った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

男鹿一樹は愛を知らないユニコーン騎士団団長に運命の愛を指南する?

濃子
BL
おれは男鹿一樹(おじかいつき)、現在告白した数99人、振られた数も99人のちょっと痛い男だ。 そんなおれは、今日センター試験の会場の扉を開けたら、なぜか変な所に入ってしまった。何だ?ここ、と思っていると変なモノから変わった頼み事をされてしまう。断ろうと思ったおれだが、センター試験の合格と交換条件(せこいね☆)で、『ある男に運命の愛を指南してやって欲しい』、って頼まれる。もちろん引き受けるけどね。 何でもそいつは生まれたときに、『運命の恋に落ちる』、っていう加護を入れ忘れたみたいで、恋をする事、恋人を愛するという事がわからないらしい。ちょっとややこしい物件だが、とりあえずやってみよう。 だけど、ーーあれ?思った以上にこの人やばくないか?ーー。 イツキは『ある男』に愛を指南し、無事にセンター試験を合格できるのか?とにかく笑えるお話を目指しています。どうぞ、よろしくお願い致します。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

処理中です...