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しおりを挟む一体、どれだけの時間が経ったのだろう。
体感的には、十数分。……だけど、もう随分と陽が傾いている。
冷蔵庫から出された缶ジュースを受け取った白川は、移動の疲れもあったのだろう。ソファに座って暫くすると、うとうとと眠ってしまった。
暇を持て余していた僕は、職員室の中をうろうろとする。
『小山内圭吾』──そう書かれた日誌を見つけ、改めて机上全体を見る。
ファイル前に飾られた、写真立て。
ガチムチながら爽やかな笑顔の好青年と、その隣に立つ白川。二人の後ろには、数人の女子生徒。
恐らく、校外授業。
木々に囲まれた場所で、長袖の体操服を着た白川が少しはにかんだ顔をしていた。
「……え、」
写真の右下にある、赤い印字。
その数字の羅列が目に飛び込み、驚愕する。
二十年前──?!
慌てて辺りを見回す。
隣の机に散乱した、保護者へのプリント。黒板に書かれた年間行事表。立てて整理されたファイルの背表紙。壁に掛かった大きなカレンダー。
視線を向けた至る場所に、今が西暦何年かが、嫌という程記されていた。
「……」
……これは、何だ。
この現実離れした出来事は、一体……
まるで、白昼夢でも見ているかのよう。
胸の奥がふわふわとして、不安と高揚の入り混じった──奇妙な感覚。
「……」
もう一度、写真立てを見る。
俄に信じられない……爽やかイケメンの小山内と、女の子のように可愛い白川。
この二人の距離感と雰囲気から、只ならぬものを感じずにはいられない。
「……光くん」
パーティションの向こうから、教師の声が聞こえる。
見れば、教師が白川の肩を揺らしていた。
「よく眠っている所、申し訳ないが……」
「……」
「もう、帰る時間だ」
「……ん、」
寝ぼけ眼で教師を見上げる白川は、何とも無防備で。可愛らしくて。
不覚にも、ドキッとさせられる。
「それにしても、困ったな。……さっき小山内先生から連絡があってね。急用が出来てしまったから、あと二時間程待ってて欲しいと、伝言を頼まれたんだ」
「……え」
すっかり眠気の覚めた白川が、目を見開く。次いで直ぐ、教師の言葉を理解し、表情を曇らせた。
「……大丈夫」
「……」
「小山内先生が来るまで、先生がついてるから」
トン、トン、
そう言って、教師が白川の肩を叩く。
しかし、一度曇ってしまった顔が晴れる事はなく。何処か脅えたような目が、スッと伏せられる。
「……」
それ程までに小山内が好きなのか……と、部外者の僕にも伝わった。
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