蛍火

真田晃

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……はぁ、はぁ、はぁ、

二度目は……躊躇が薄れる分、容易い。
加えて衝動的なら、尚更──
指先に力を入れ、骨と皮だけのような白川の首を絞める。


「……!」


ふわ……
浮かんだ黄緑色の光が、僕と白川の間をゆっくり舞い飛ぶ。白川の顔に掛かった僕の黒い影を、削り取りながら。
そして、浮き上がっていく。美しい曲線の頬や鼻筋。
淡い光を取り込んだ……薄灰色の瞳。


「………だったら、」


思わず、緩めてしまった手。
頸動脈から感じる、白川の鼓動。


「犯行の順番が……逆だよ」


スル……
小枝のように折れてしまいそうな程の細い指が、自身の甚平の紐を解く。

妖しげに微笑む唇。
合わせ目の隙間に指先を差し込み、つうっと撫で上げ、浮き出た鎖骨をなぞる。
その誘うような仕草は、何とも妖艶で。
こんな状況下でも、白川の色気にそそられてしまい。ドクドクと脈打ち、欲望に飲み込まれそうになる。


「犯人は……犯した後、殺したんだよ」
「──!」


その言葉に、思わず手を退ける。
身体中の穴という穴から汗が吹き出し、肌の上を悪寒が走る。


「………どうしたの? 僕を、犯すんでしょ……?」
「やめろッ!!」


挑発だ──
挑発して、僕の反応を楽しんでいるんだ。
甚平の合わせ目をそっと摘まみ上げる、白川の指先。捲り上げようとするその手を阻止しようと、咄嗟に白川の手首を掴む。

「……」

異常な細さ。
首を絞める時も感じたが、このまま強く握ったら、骨が折れてしまいそうだ。
こんな、弱々しい身体の何処に……男らしさがあるというのだろう。
女性を力尽くで思い通りにする、男の力が。

「……」

少しずつ冷静さを取り戻すと、置かれた状況に絶句する。

ついカッとなって、感情に押し流されるまま行動を起こしてしまった。
けど。麻生さんを襲ったのが白川だなんて、どうして断定してしまったんだろう。単なる僕の、憶測に過ぎないのに。


なのに僕は──白川を殺そうとした。

その上……白川に……


「……っ、!!」


硬く、張り詰めてしまっている欲望。



これじゃあまるで……

……暴漢の犯人、そのものじゃないか……




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