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しおりを挟む最後の曲がスピーカーから流れ、練習が再開される。
明るい調子のお囃子に合わせ身体を動かしながら、曲線を描いた外列の遥か先にいる麻生の横姿を、揺れる視界に収める。
遠くからでも解る。
まるで宝石のように、麻生さんの周りだけがキラキラと輝いて見える。
いつだって、そうだ。
僕の視界に映る麻生さんは、笑顔が素敵で、可愛くて、瞳が綺麗で……
例え人混みの中に居たって、直ぐに見つける自信がある。
櫓の陰に隠れる直前、麻生が振り返って笑顔を見せたのは、直ぐ後ろについた──窪塚。
『年上の彼女がいる』と言っていたが、それが真実とは限らない。
麻生さんの傍には、大概窪塚がいる。そのせいで、諦めた男子は数多い。
千明先輩は、まだ諦めてはいないみたいだけど。
──でも。
その恋路を、応援しているようで邪魔しているのが、長田先輩だ。
以前、委員会室の前を通った時。机に伏して眠っていた千明先輩の傍に立ち、剥き出された頬にそっと触れた後、キスを落とした長田先輩の姿を──偶然、ドアの隙間から目撃してしまった。
そして。
窪塚の後ろにいるのが──山口。
いつも麻生さんの腕に絡み付くせいで、陰ではレズだと言われている。
しかし良く良く観察してみると、本当に麻生さんを恋愛的な意味で好きなのか、疑問が残る。
山口さんの前髪にあるパッチン留め──それは小5の頃、窪塚が山口にあげたものだ。
床に落ちた髪留めを、誤って窪塚が踏んで壊してしまい。後日、他には誰もいない放課後の廊下で、窪塚が謝りながら渡している所を偶然見掛けた。
それを、未だに使っているという事は、窪塚に対して、少なからず好意を寄せているからなのかもしれない。
……もし……それが本当なら……
麻生さんは……
「………!」
スピーカーから流れる曲が、暑さのせいか、テープが伸びたように歪んで聴こえる。
うねる視界。提灯の明かりと人影が、ゆらゆらと不気味に揺れる。
浮かべる笑顔は、真実なんかじゃない。
みんな、少なからず……
本性を隠しながら、生きてる。
眩暈と吐き気を感じながらも、必死で足に力を入れて、踏ん張る。
周りの笑顔から逃れるように、公園入り口の方へと視線をやると……
──白川の姿は、もうそこには無かった。
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