蛍火

真田晃

文字の大きさ
上 下
12 / 71

12.

しおりを挟む

最後の曲がスピーカーから流れ、練習が再開される。
明るい調子のお囃子に合わせ身体を動かしながら、曲線を描いた外列の遥か先にいる麻生の横姿を、揺れる視界に収める。

遠くからでも解る。
まるで宝石のように、麻生さんの周りだけがキラキラと輝いて見える。
いつだって、そうだ。
僕の視界に映る麻生さんは、笑顔が素敵で、可愛くて、瞳が綺麗で……
例え人混みの中に居たって、直ぐに見つける自信がある。

櫓の陰に隠れる直前、麻生が振り返って笑顔を見せたのは、直ぐ後ろについた──窪塚。

『年上の彼女がいる』と言っていたが、それが真実とは限らない。

麻生さんの傍には、大概窪塚がいる。そのせいで、諦めた男子は数多い。
千明先輩は、まだ諦めてはいないみたいだけど。

──でも。
その恋路を、応援しているようで邪魔しているのが、長田先輩だ。
以前、委員会室の前を通った時。机に伏して眠っていた千明先輩の傍に立ち、剥き出された頬にそっと触れた後、キスを落とした長田先輩の姿を──偶然、ドアの隙間から目撃してしまった。


そして。
窪塚の後ろにいるのが──山口。
いつも麻生さんの腕に絡み付くせいで、陰ではレズだと言われている。
しかし良く良く観察してみると、本当に麻生さんを恋愛的な意味で好きなのか、疑問が残る。

山口さんの前髪にあるパッチン留め──それは小5の頃、窪塚が山口にあげたものだ。
床に落ちた髪留めを、誤って窪塚が踏んで壊してしまい。後日、他には誰もいない放課後の廊下で、窪塚が謝りながら渡している所を偶然見掛けた。

それを、未だに使っているという事は、窪塚に対して、少なからず好意を寄せているからなのかもしれない。


……もし……それが本当なら……
麻生さんは……


「………!」

スピーカーから流れる曲が、暑さのせいか、テープが伸びたように歪んで聴こえる。
うねる視界。提灯の明かりと人影が、ゆらゆらと不気味に揺れる。


浮かべる笑顔は、真実なんかじゃない。

みんな、少なからず……
本性を隠しながら、生きてる。


眩暈と吐き気を感じながらも、必死で足に力を入れて、踏ん張る。


周りの笑顔から逃れるように、公園入り口の方へと視線をやると……

──白川の姿は、もうそこには無かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

さっちゃんと僕

BL
今でも、思い出せる、僕の小学生、中学生の時の体験談を小説風にしてみました。 内容は、多少の脚色が入っていますが、ほぼ実話です。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

処理中です...