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第三章 パパ
95.
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「えっ、凛々子さん!?」
「ヨォーっす!!」
遠くから駆け寄ったのは、先輩の取り巻きリーダーである、石原由美。凛々子と呼ばれた金髪女性は、石原の姿を捉えるなり元気よく片手を上げた。
「え、えっ、どうしたんですか?」
「……んー、ちょっとねぇン」
答える凛々子から視線を外し、私を一瞬鋭く睨みつける。
その視線から逃れるように俯き、再び筆を走らせる。
「……あぁ、そうそうそう! 由美っちさぁ、この辺に美味しいクロワッサンのある店、知らない?」
「えっ、クロワッサンですかぁ?」
二人の会話から、その立ち位置が何となく見えてくる。
そう思えば、凛々子さんは安藤先輩に一番近い存在で、取り巻きリーダーも認める程の特別な人なんだろう。
例えば──恋人とか。
でも。だとしたら。
どうして、わざわざ私に助言なんて……
「……」
ふと、走らせていた筆を止める。
もし大山さんなら、私をダシに使うだけで、あんな事言ったりしない。
多分、他の取り巻きだって……
カーストトップだから?
先輩の特別だから?
自分の立場位置も先輩との関係も、揺るがない自信があるから?
「……」
絶対的な自信とパワーが、凛々子さんの全身から漲っている。
人に恵まれ、嫌な事を撥ね除けるオーラもあって、順風満帆な人生を送ってきたんだろう。
きっとこの先も、阻むものなんてないんだろうな……
それにくらべて私は、物心ついた時から下等動物扱いを受け、虐げられてきた。
きっとこの先も、変わらない。何も……変わらない。
だから、目立たないよう気をつけながら生きていくしかない。そうしないと、簡単に足元を掬われてしまうから。
「あ、もしかして、そこのクロワッサン買いに来たとか……ですか?」
「うーん、まぁ。それもあるんだけどねぇ……」
振り返った凛々子が、チラッと私を見て直ぐに石原へと顔を戻す。
「………あんまり、果穂ちゃんを虐めないでやって」
……え……
筆を走らせ始めたばかりの手が、再び止まる。
想像もしていなかった台詞に、どう気持ちを処理していいか解らない。
今日初めて会った人から、それもカーストトップの人から──何の見返りもなく庇われるなんて。
「……」
潜める息。
丸まっていく背中。
私の意思に反して、小さく縮こまろうとする身体。
……もう、逃げたい。
「ヨォーっす!!」
遠くから駆け寄ったのは、先輩の取り巻きリーダーである、石原由美。凛々子と呼ばれた金髪女性は、石原の姿を捉えるなり元気よく片手を上げた。
「え、えっ、どうしたんですか?」
「……んー、ちょっとねぇン」
答える凛々子から視線を外し、私を一瞬鋭く睨みつける。
その視線から逃れるように俯き、再び筆を走らせる。
「……あぁ、そうそうそう! 由美っちさぁ、この辺に美味しいクロワッサンのある店、知らない?」
「えっ、クロワッサンですかぁ?」
二人の会話から、その立ち位置が何となく見えてくる。
そう思えば、凛々子さんは安藤先輩に一番近い存在で、取り巻きリーダーも認める程の特別な人なんだろう。
例えば──恋人とか。
でも。だとしたら。
どうして、わざわざ私に助言なんて……
「……」
ふと、走らせていた筆を止める。
もし大山さんなら、私をダシに使うだけで、あんな事言ったりしない。
多分、他の取り巻きだって……
カーストトップだから?
先輩の特別だから?
自分の立場位置も先輩との関係も、揺るがない自信があるから?
「……」
絶対的な自信とパワーが、凛々子さんの全身から漲っている。
人に恵まれ、嫌な事を撥ね除けるオーラもあって、順風満帆な人生を送ってきたんだろう。
きっとこの先も、阻むものなんてないんだろうな……
それにくらべて私は、物心ついた時から下等動物扱いを受け、虐げられてきた。
きっとこの先も、変わらない。何も……変わらない。
だから、目立たないよう気をつけながら生きていくしかない。そうしないと、簡単に足元を掬われてしまうから。
「あ、もしかして、そこのクロワッサン買いに来たとか……ですか?」
「うーん、まぁ。それもあるんだけどねぇ……」
振り返った凛々子が、チラッと私を見て直ぐに石原へと顔を戻す。
「………あんまり、果穂ちゃんを虐めないでやって」
……え……
筆を走らせ始めたばかりの手が、再び止まる。
想像もしていなかった台詞に、どう気持ちを処理していいか解らない。
今日初めて会った人から、それもカーストトップの人から──何の見返りもなく庇われるなんて。
「……」
潜める息。
丸まっていく背中。
私の意思に反して、小さく縮こまろうとする身体。
……もう、逃げたい。
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