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第三章 パパ
70.
しおりを挟む「驚かせてごめんね」
「……いえ……」
何処か嬉しそうな先輩と肩を並べ、大通りを駅へと向かって歩く。
煌々とするネオン。流れる音楽。街に渦巻く喧騒。
往来する車のライトが、私や先輩の姿を明るく映し出しては消えてゆく。
「果穂の店の向かいに、車が一台通れる位の細い道があるじゃん。……ほら、あそこ。そこ入っていった左側に、蒼い壁の小さなレストランバーがあるんだけどね。……俺、そこで時々手伝いさせて貰ってんだよ」
「……」
「知り合いの店でさ。結構お洒落で料理も美味くて。他にも何店舗か、飲み会で知り合った人に紹介して貰って、同じようにやってる。
……俺ね。近い将来、自分の店持つのが夢で。だから、今はその修業というか。学ばせて貰ってる所」
「……」
私とは、全然違う。
先輩は私とは違って、お金を稼ぐ為に働いてる訳じゃない。
私とは違う世界。
目の前にあっても手に入らない、余りにも贅沢な──『普通』。
だからこそ、反応に困る。
凄いと褒めればいいのは解ってるけど、中々それが言い出せない。
「………果穂は?」
「……」
「あの店で、大概遅くまで働いてるよね」
「……」
別に……安藤先輩のような、立派な理由なんかじゃない。
そもそもの次元が違う。
施設出身でもなく、仕送りや奨学金があって、お金にそれ程困っていない人にとっての『働く』は、明日生きられるかどうか、命を繋ぐ為のものではなくて。
安藤先輩のように自分を磨いて、将来を輝かしいものにする為のものなのかもしれない。
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