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第二章 人と、金と…
50.
しおりを挟む『もしもし、果穂ちゃん?』
『バースデーイベントの日だけど、予定とか大丈夫?』
『……果穂ちゃんには、是非来て欲しいな』
スマホを耳に当て、再生した留守電を聞く。
入っていたのは全て、祐輔くんから。変わらず元気で、明るい声。だけど……
″………そうですね。考えておきます″
先日。雨に濡れたまま聞いた美麗の声は、怖い位に冷め切っていた。
「……」
もし、私を見切るつもりなら、もう営業の電話なんて掛けてこない筈。
でも、もしキャバやソープに沈めるつもりなら……
″会いに来てくれただけで、充分嬉しいからさ!″──ふと蘇る、美麗の言葉。
そんな、優しい気遣いをする祐輔くんが、……そんな事……
「……」
耳から、スマホを離す。
施設にいた時──何の見返りもなく、祐輔くんは私を助けてくれた。
だから、今の祐輔くんがどっちであっても、私は祐輔くんを助けたい。
……逢いたい。
部屋にある現金──棚にある貯金箱の小銭、生活費や積立金等のお札を掻き集める。
全部で、10万。
今の私には、これしかない。
テーブルの上に折り畳みの鏡を置き、シュシュで髪を後ろに束ねる。
チープな服。チープな口紅。
それでも、いま私にできるだけのお洒落をする。
ありったけのお金を握り締め、アパートを飛び出した。
煌びやかな店内。眩い照明。
アップテンポの激しいミュージック。ステージショー。
シャンパンタワー。ドンペリコール。
沢山の人、人、人──
「……」
通された席はステージから遠く、既に盛り上がった空気に中々馴染めない。疎外感に陥りながら一人、オレンジジュースを飲む。
飲酒可能年齢に達した事もあり、別の卓では美麗へのお祝いのボトルが注文される。そういうのもあってなのか。美麗が私の席についたのは入店して暫く経ってから。やっと隣に座ったと思っても、ものの数分でまた移動。
それからずっと、戻って来ない。
………もう、帰ろうかな。
ヘルプを付けていない事もあり、静まり返った小さな空間に、虚しさだけが募る。
美麗くんにとって私は、数ある客の中の一人。そんなのは解ってる。……解ってるけど……
バックを持って席を離れると、すれ違った黒服から「トイレは彼方で御座います」と笑顔で告げられた。
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