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第一章 初恋の人
23.
しおりを挟む……パシャ。
殆どの生徒が、スマホを掲げて黒板の写真を撮る。
中には、最初から最後まで動画を撮りつつ、机に突っ伏して寝ている生徒もいる。
この先生はとにかく早口で、黒板に書いた文字を直ぐに消してしまうので有名だったりする。ノートに書き写す暇など、恐らく無いに等しい。
スマホで写真を撮りながら講義を聴く方が、賢明というもの。
「……今日はここまで」
チャイムと共に、先生がサッサと授業を終わらせる。
人気講師なら、質問やら何やらで生徒から引き止められるのだろう。しかし特にそういう事もなく、先生は静かに教材や資料を纏めていた。
もともとまばらだった生徒が、荷物を纏めてバラバラと席を立つ。
そんな中私は、先生の話を忘れないうちに、走り書きしたメモと写真画像を睨めっこしながら、ノートを纏めていた。
「……」
施設にいた頃、私は目立たない存在だった──
目立たない、というより、目立たないようにしていた……というのが正しいのかもしれない。
環境さえ整えば、直ぐに家に帰れる私は、そうではない人達から一線を引かれていたから。
私がマンモス施設に入ったのは、確か物心ついた三歳の頃──それまでは、育児ノイローゼだった母をサポートした市の職員が、こじんまりとした児童養護施設を紹介し、そこに何度か私を短期入所させていたらしい。
でも、父のリストラで家計が火の車だった事もあり、預けるだけのお金どころか、明日生きていくお金さえも無く──命の危険を感じた行政が両親と話し合い、説得し、私を引き取ったとか。
入所して最初のうちは、優しく声を掛けてくれる小学生以下のお兄ちゃんやお姉ちゃん達がいた。
だけど運の悪い事に、私はカースト上位グループと同室で──最初から、あからさまに避けられていた。
そうなれば、その取り巻き達は勿論、空気を敏感に察知したカースト下位の人達までも、私から離れ遠巻きにした。
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