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第一章 初恋の人
9.あと一歩
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* * *
開いた通帳の数字を目で追いながら、深い溜め息をつく。
……ホストって、一体どれくらいかかるんだろう。
私が施設を出たのは、高校生の頃。
里親が決まったのではなく……実親が突然、私を引き取りに来たのだ。
私を出産したばかりの母は、愚図りと夜泣きの多い私の育児に、ノイローゼになっていた。
その上父がリストラに遭い、就職先も中々見つからず。困窮した生活を強いられ、先行き不安の中、母は私を育てる気力を失っていた。
金銭面も含め、子供を育てられる環境では到底無く──訪問に来た市の職員からの通報もあり、私を施設に預けた……らしい。
だから施設の職員からも、環境さえ整えば『お家に帰れるわよ』と言われていた。
……けど、五歳になった頃。
面会に来た母のお腹が、大きく膨らんでいた。
父が就職し、生活が安定してきて、そろそろ引き取る手続きを……というタイミングで。
妹が産まれた後も、低所得層であるのは変わらない。
……それでも。妹は最初から両親に育てられ、次いで弟が産まれて……誰も、私のように預けられる事は無かった。
まだ小さいうちは、そこまで子供に掛かる費用は少なかったのかもしれない。
大きくなればなる程、習い事や塾など……お金は|嵩(かさ)んでいくものだから。
だからきっと、私は預けられたままの方が都合が良かったのだろう。寝食を共にしない私に対して、他の兄弟よりも愛情が薄かったのかもしれない。
高校生になって、今更ながらに引き取られた。
……でも、私が両親に一番期待されたのは──働き手だった。
妹や弟が大きくなっていくにつれ、父の薄給と母の扶養控除内のパート代だけでは、生活が苦しかったのだろう。
家族の為に、バイトをしてくれ。そう……頭を下げられた。
けど。私の通っていた高校では、アルバイトが禁止されていて。申請して許可が下りたのは、年末年始に募集される、郵便局のアルバイトのみだった。
……その僅かなお金さえ、全部毟り取られて。妹の修学旅行の積み立て代に充てられたんだよね。
静かに通帳を閉じる。
どんなに見ても、金額が変わる訳じゃない。
「……」
居心地の悪い、他人のような家を早く出て、自立したいと強く思った。
だけどいくら『学歴社会は崩壊した』等とメディアが発していても、求人をみればそうではない現実がそこにある。
この先を考えれば、学歴は絶対にあった方がいい。特に私は、施設で育ったのだから。
金銭的な苦労をするかもしれない。けど、大卒して就職すれば、その苦労はきっと報われる。
ベアの望めない会社でも、最初から高い基本給が貰える。
施設出身者だと、馬鹿にされない。
お金で苦労する事もない。
──例え一人でも、生きていける筈……
「……」
通帳を、ギュッと握り締める。
……なのに、矛盾してる。
コツコツ貯めてきた、将来の為のお金を引き出そうとしている。
祐輔くんの為に。
開いた通帳の数字を目で追いながら、深い溜め息をつく。
……ホストって、一体どれくらいかかるんだろう。
私が施設を出たのは、高校生の頃。
里親が決まったのではなく……実親が突然、私を引き取りに来たのだ。
私を出産したばかりの母は、愚図りと夜泣きの多い私の育児に、ノイローゼになっていた。
その上父がリストラに遭い、就職先も中々見つからず。困窮した生活を強いられ、先行き不安の中、母は私を育てる気力を失っていた。
金銭面も含め、子供を育てられる環境では到底無く──訪問に来た市の職員からの通報もあり、私を施設に預けた……らしい。
だから施設の職員からも、環境さえ整えば『お家に帰れるわよ』と言われていた。
……けど、五歳になった頃。
面会に来た母のお腹が、大きく膨らんでいた。
父が就職し、生活が安定してきて、そろそろ引き取る手続きを……というタイミングで。
妹が産まれた後も、低所得層であるのは変わらない。
……それでも。妹は最初から両親に育てられ、次いで弟が産まれて……誰も、私のように預けられる事は無かった。
まだ小さいうちは、そこまで子供に掛かる費用は少なかったのかもしれない。
大きくなればなる程、習い事や塾など……お金は|嵩(かさ)んでいくものだから。
だからきっと、私は預けられたままの方が都合が良かったのだろう。寝食を共にしない私に対して、他の兄弟よりも愛情が薄かったのかもしれない。
高校生になって、今更ながらに引き取られた。
……でも、私が両親に一番期待されたのは──働き手だった。
妹や弟が大きくなっていくにつれ、父の薄給と母の扶養控除内のパート代だけでは、生活が苦しかったのだろう。
家族の為に、バイトをしてくれ。そう……頭を下げられた。
けど。私の通っていた高校では、アルバイトが禁止されていて。申請して許可が下りたのは、年末年始に募集される、郵便局のアルバイトのみだった。
……その僅かなお金さえ、全部毟り取られて。妹の修学旅行の積み立て代に充てられたんだよね。
静かに通帳を閉じる。
どんなに見ても、金額が変わる訳じゃない。
「……」
居心地の悪い、他人のような家を早く出て、自立したいと強く思った。
だけどいくら『学歴社会は崩壊した』等とメディアが発していても、求人をみればそうではない現実がそこにある。
この先を考えれば、学歴は絶対にあった方がいい。特に私は、施設で育ったのだから。
金銭的な苦労をするかもしれない。けど、大卒して就職すれば、その苦労はきっと報われる。
ベアの望めない会社でも、最初から高い基本給が貰える。
施設出身者だと、馬鹿にされない。
お金で苦労する事もない。
──例え一人でも、生きていける筈……
「……」
通帳を、ギュッと握り締める。
……なのに、矛盾してる。
コツコツ貯めてきた、将来の為のお金を引き出そうとしている。
祐輔くんの為に。
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