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しおりを挟む「……そう」
それまで岩瀨の話を静かに聞いていた若葉が、溜め息混じりに言葉を吐き出す。
「その後輩って、……もしかして」
「……」
「……幹生くんが全部、背負う事はないわ」
「そんな事、言わないで下さい!
俺のせいなんです。全部、俺の……
俺があの時、奴を見逃したりさえしなければ、……犠牲者があんなに、出る事なんて──」
顔を伏せ、声を震わせる岩瀨。酒が入ったせいもあるんだろうけど、ここまで弱気な姿を見せるなんて思わなかった。
若葉の手が、思い詰める彼の方へと伸ばされる。
「……」
可笑しな関西弁……
たったそれだけの情報なのに、何でだろう。ふと脳裏を過ってしまったのは──ヘラッと笑う、凌。
ピンポーン、
空気を切り裂く、突然のチャイム。
引っ込められる手。
「……ちょっと、出てくるわね」
無情な言葉を残し、スッと立ち上がった若葉が玄関へと向かう。パタンと閉められるドア。この空間に、僕と岩瀨を残して。
途端に漂う、気まずい空気。嫌な感覚に襲われ、飲みたくもないドリンクを口に含む。
「……さくらくん」
声がして顔を上げれば、対角線上にいた筈の岩瀨が直ぐ隣に座っていた。
「この前は、悪かったね。……君に近付いた男性が、どうも反社の人間のように見えてしまったんだよ。
職業病なのかな。人を疑う癖がついてしまってね」
「……」
酒臭い息を撒き散らしながら、一人頷く。
「これ」
スッ、
身体を少し傾け、ポケットから取り出されたのは、小さく折り畳まれた白い紙。受け取って広げてみれば、そこに書かれていたのは……12桁の数字。
「渡すべきかどうか、ずっと迷ってた。
引っ越しの日、倒れた君がずっと握りしめていたものだよ」
「……」
「その時一緒にいた彼は、君を酷く心配していたようだけど。
その……反社の臭いがしたんだ」
「……!」
……思い、出した……
『これ、俺の携帯番号ッス。何か困った事があったら、連絡下さい』
『……』
『それと、リュウさんからの伝言で……姫の生活が落ち着いた頃、一度じっくり会いたいそうッス』
意識が遠退いていく中、近付いてくるモルからこれを受け取ってたんだ。
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