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しおりを挟む「……あの、」
サッカー台に清算済みのカゴを置き、レジ袋に買ったものを詰め込んでいると、突然背後から声を掛けられた。
ビクン、と大きく跳ね上がる両肩。止まる手。
怖ず怖ずと振り返れば、視界に映ったのは──スラリと背の高い、細身の男性。
大学生位だろうか。天パのようにウェーブ掛かった細い髪。人懐っこい柔和な笑顔。
「……」
余り見掛けない顔──だけど、何となく見覚えがあるような。
……まさか……
脳裏を過ったのは、前のアパートで忘年会を開いた時に集まった、凌の後輩の面々。
……だけど。水神以外の顔を、正確には思い出せない。
「これ、落としましたよ」
差し出されたのは、御守りの鈴が付いたアパートの鍵。
「……ぁ、」
一瞬で、解かれる警戒心。
いつの間に落としてしまったんだろう。後ろのポケットに手を当て、膨らんだ財布の存在に気付かされる。
もしかして、会計の時に落ちて……
伏せ目がちに頭を下げ、男の指先に引っ掛けられたそれを取ろうと、片手を伸ばした──時だった。
「………あれ、さくらくん?」
近くで声がし、驚いて顔を上げる。と、視界に映ったのは、店の出入口から此方に向かって歩いてくる──制服姿の岩瀨。
「どうしたの? 何かトラブルでも?」
「……」
警戒するように相手を値踏みながら近付き、僕の隣に立つ。
「……いえ、あの……鍵を落としちゃったみたいで。この方が……」
チリン……
岩瀨を見上げながらそう答えていれば、伸ばしかけていた手のひらに鍵を落とされる。
「……」
ぺこっと軽く頭を下げ、サッと去って行く男性。最初の頃にあった柔和な笑顔はなく、何処か居心地の悪そうな、忌まわしげな表情が垣間見えた。
その後ろ姿を見送りながら、申し訳ない気持ちになる。ただ、落とし物を届けてくれただけなのに……
「……絡まれてた訳では無かったんだな」
「……」
「只、君はもう少し警戒した方がいい」
同じく彼を目で見送っていた岩瀨が、溜め息混じりに続けて話す。
「悪い奴というのは、何も視覚的に判断できるものばかりじゃないんだ。親切なフリをして近付き、味方のような顔をして隙を見せ、相手の警戒心が緩む瞬間をじっと伺っているんだよ」
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