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しおりを挟む「……」
何処か遠い目をしていた若葉が、一瞬だけ視線を僕に向ける。
その目はナイフのように鋭くて。無機質で。冷ややかに光ったように見えた。
「母は、達哉に執着してたの。異常なまでにね。
毎晩遅くまで勉強させて、いい大学に行かせようと必死だったのよ。それに答えようとする達哉は……傍から見ていて、とても可哀想だった」
「……」
「その達哉に話し掛けて、気を散らす僕が……きっと気に喰わなかったんだと思うわ」
「……」
……そんな。
たった、それだけの理由で……
当時の父や若葉の心情を思うと、胸の奥が締め付けられる。
あの写真立てにある笑顔の裏に、そんな事情を抱えていたなんて。
僕なんかとは違う。
仲の良い兄弟以上の、強い絆を感じる。
お互いがお互いを必要とし、支え合って生きてきたんだろうな……
「……」
でも。
そんな父を、僕が死なせてしまった。
僕が生まれてきてしまったせいで。僕のせいで、大切な人を──
『お前なんか、産まなきゃよかった──!』
鬼のような形相で、僕の首を絞める母。
あんな風に、僕を恨んでも仕方がない筈なのに。どうして若葉は、こんな僕を引き取ろうと思ったんだろう。
引き取る気に、なったんだろう……
「さくらは?」
不意に尋ねられ、ハッと我に返る。
写真立てから若葉の方へと視線を移せば、口角を緩く持ち上げ、当然僕と同じでしょと言わんばかりの眼つきをしていた。
「アゲハとは、今でも連絡を取り合ってるの?」
そう聞かれて、言葉に詰まる。
若葉は……知らない。
僕とアゲハの間に何があったのか。もう既に、埋まらない溝が存在している事なんて。
「……いえ。去年の春頃、家を飛び出してからは……全く」
向けられる視線から逃れられず。若葉を見つめたまま小さく首を横に振る。
「そう……。確かに人気俳優になっちゃったから、中々難しいわよね」
「……」
「でもね。兄弟は、親よりも長い付き合いになるのよ」
溜め息混じりにそう言った若葉の瞳が、物憂げに細められる。
「だからもっと、仲良くしていて欲しいの。……僕と達哉みたいに」
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