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しおりを挟む悪いのは、卑劣なやり方で未成年者に手を出した、樫井秀孝の方なのに。
どうして僕のプライバシーまで、侵害されなくちゃならないんだろう。
……僕が、アゲハの弟だから?
今まで、色んな人に踏み台にされてきた。僕がどんな気持ちでいようが、傷付こうが関係なくて。アゲハに近付く為なら、僕の心をも利用する汚い奴等ばかりだった。
その呪縛から、やっと解放されたと思っていたのに。また──
──ドンドンドンッ!
突然、ドアを激しく叩かれる。
その刹那、酷く飛び上がる心臓。
「工藤さくらくーん!」
「中にいるんでしょー?」
カタンッ、
ドアポストの口が開き、放たれる声。
散った筈のジャーナリスト達が、戻ってきたのだろうか。それとも、また別の──
「……っ、」
悪い事をした訳じゃ、ないのに。
カーテンを閉めきったまま、部屋の片隅で膝を抱え、耳を塞ぐ。
──『では、次のコーナーに参ります。本日は、○○の美味しい店を紹介します。リポーターの……』
付けっぱなしのテレビから漏れる、朝の爽やかな音楽。女子アナが柔和な表情で、中継先のリポーターに呼びかけていた。
その作ったような笑顔が、気持ち悪い。僕を踏み台にする女達と、重なって見えて……
──ドンドンドンッ!
「ちょっとだけでも、話聞かせてよ!」
「ねぇ、工藤さくらくん!」
……なん、で……
執拗に責め立てる声。
踵をお尻の方へと近付け、身体を小さく丸める。
母に怒鳴られた時のような恐怖が襲い、俯きながら瞼を強く閉じる。
小刻みに震える身体。指先。
まるで、折檻部屋に閉じ込められた時のようで……怖い。
『大丈夫』
耳奥で響く、若葉の声。
『これからは、僕が守ってあげるから』
優しく僕を包む温もり。
ふわりと香る、若葉の甘い匂い。
「……」
ただ……それだけで。
守られてるような気がして。
胸の奥が切なく震えてしまう。
──ドンドンドンッ
それでも。暴力的なノック音が、僕を冷たい現実に引き戻す。
袖口をギュッと強く握り締め、この恐怖の嵐が過ぎ去っていくのを、ただ堪えるしかなかった。
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