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12.マスコミ
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薄日が瞼に当たり、目が覚める。
私服に着替えて居間に行けば、キッチンに立つ若葉と目が合った。
「おはよ」
「……」
「よく眠れた?」
柔やかにそう聞かれて戸惑う。
暴漢に襲われたから、だけじゃない。若葉から微かに漂う甘い香りが、布団に色濃く染み付いていて。その匂いのせいで、中々眠れなかった。
「朝ご飯に、目玉焼き作ってみたんだけど。食べられそう?」
「……はい」
明るく微笑む若葉に、小さく頷く。
「じゃ、顔洗ってきて。一緒に朝ご飯食べよ」
他愛のない日常会話。
和やかな雰囲気。
こんな朝を迎える日が来るなんて、思わなくて……
「……はい」
ずっと、夢物語だと思っていた。
こういう光景は、テレビや本の世界にしかないんだって。
「……いただきます」
テーブル前に座り、両手を合わせる。
少し焦げた、固めの目玉焼き。ソーセージ。ミニトマト。レタス。そして、バタートーストにコーンスープ。
家族の誰かと、同じ食卓を囲む──それは、僕にとって当たり前な事じゃない。
でも。クラスメイト達や、街ですれ違う見知らぬ人々にとっては、きっと当たり前すぎて、別段何も感じないんだろうな。
「……」
もし、父が生きていたら。
今頃家族四人で、当たり前に食卓を囲んで楽しく談笑していたかもしれない。
そういう未来に歩めていたら、良かったのに──
*
「……きみ、工藤さくらくんだよね?!」
ショルダーバッグを取りに、一度アパートへと戻ってきた時だった。
どこから湧いてきたのか。外階段の所で、突然数人の男達に囲まれる。
「樫井秀孝に、性行為を強要されたんだよね」
「君が黒咲アゲハの弟だという事は、調べがついてるんだよ」
「被害に遭った時の状況、詳しく教えて貰えないかな」
ハイエナの如く、僕に向ける好奇な目、目、目──
仕事だとはいえ、気持ち悪い。
「金銭の授受があったのは、本当?」
「君の代理人は誰? やはり、黒咲アゲハ?」
代理人──その言葉に、凌のマンションで行われた出来事が、断片的に思い出される。
恨めしそうに睨み上げる、樫井の眼。
望まない男性と、ハンディカメラを向けられながらの性交渉。
「……」
その時受けた恥辱が鮮明に蘇り、津波の如く苦痛が押し寄せ……身体が、動かない。
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