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5.暴漢
しおりを挟むスーパーやコンビニは、直ぐそこなのに。食欲が失せてしまい、踵を返す。握り締めた両手をパーカーのポケットに仕舞い、今し方来た道を戻る。
「……」
人通りのない侘しい路地裏。外灯が殆どなく、住宅や月極駐車場、空き地のある閑静なこの通りは、慣れているとはいえ物々しい。この辺りの住民だろうか。大通りから入ってくる人の気配を感じ、少しだけ心強い。
──ビュゥ、
入り組んだ道を曲がった途端、強い突風に襲われる。思わず目を瞑って立ち止まれば──
「工藤さくらくん、だよね」
直ぐ背後に感じる、気配。
「──ッ!!」
その刹那──緊張が走る。
振り返ろうとすれば、口を塞がれ──抵抗する間もなく空き地に連れ込まれ、枯れ草や雑草の生えた地面に捩じ伏せられる。
「嬉しいなぁ。……本当に、この世にいたんだぁ……」
……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ
身体をひっくり返され、取られた右手を砂利に押し付けられ……腰上に跨がった男が、もう片方の手で僕の口を強引に塞ぐ。
「……!」
門外で見た、ハンチング帽の男──じゃない。
40代位の小太り。少し禿げ掛かった頭。ちりめんじゃこのような細くて小さい目が、厭らしく僕の顔を舐め回す。
酷く興奮しているんだろう。ニタついて緩んだ口元から、荒々しい呼吸が何度も漏れる。
「ネットで見るより、可愛いねぇ……」
ゴリッ、
上体を倒して僕に覆い被さり、硬くなった下半身を執拗に押し付けてくる。
「……」
ハァ、ハァ、ハァ……
顔に掛かる、男の不快な吐息。
「慰めて、あげようか」
いひひ……
気持ち悪い笑みを漏らし、べろりと舌舐めずりをする。
「大丈夫、怖くないよ」
「……」
「俺は、樫井秀孝より、優しい男だからね……」
……何を、言ってんだコイツ。
空いた左手で、僕の口を塞ぐ男の右腕を掴む。引き剥がそうと藻掻きながら、必死で身体を捩るけど……びくともしない。
「直ぐに、気持ち良くしてあげるよ」
ふぅ、ふぅ、ふぅ……
顔を横に倒され、乱れた横髪から覗く耳。
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