バタフライ・ナイフ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る4-

真田晃

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5.暴漢

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スーパーやコンビニは、直ぐそこなのに。食欲が失せてしまい、踵を返す。握り締めた両手をパーカーのポケットに仕舞い、今し方来た道を戻る。

「……」

人通りのない侘しい路地裏。外灯が殆どなく、住宅や月極駐車場、空き地のある閑静なこの通りは、慣れているとはいえ物々しい。この辺りの住民だろうか。大通りから入ってくる人の気配を感じ、少しだけ心強い。

──ビュゥ、

入り組んだ道を曲がった途端、強い突風に襲われる。思わず目を瞑って立ち止まれば──


「工藤さくらくん、だよね」


直ぐ背後に感じる、気配。


「──ッ!!」


その刹那──緊張が走る。
振り返ろうとすれば、口を塞がれ──抵抗する間もなく空き地に連れ込まれ、枯れ草や雑草の生えた地面に捩じ伏せられる。


「嬉しいなぁ。……本当に、この世にいたんだぁ……」

……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ


身体をひっくり返され、取られた右手を砂利に押し付けられ……腰上に跨がった男が、もう片方の手で僕の口を強引に塞ぐ。

「……!」

門外で見た、ハンチング帽の男──じゃない。
40代位の小太り。少し禿げ掛かった頭。ちりめんじゃこのような細くて小さい目が、厭らしく僕の顔を舐め回す。
酷く興奮しているんだろう。ニタついて緩んだ口元から、荒々しい呼吸が何度も漏れる。

「ネットで見るより、可愛いねぇ……」

ゴリッ、
上体を倒して僕に覆い被さり、硬くなった下半身を執拗に押し付けてくる。

「……」

ハァ、ハァ、ハァ……
顔に掛かる、男の不快な吐息。


「慰めて、あげようか」


いひひ……
気持ち悪い笑みを漏らし、べろりと舌舐めずりをする。

「大丈夫、怖くないよ」
「……」
「俺は、樫井秀孝より、優しい男だからね……」

……何を、言ってんだコイツ。
空いた左手で、僕の口を塞ぐ男の右腕を掴む。引き剥がそうと藻掻きながら、必死で身体を捩るけど……びくともしない。

「直ぐに、気持ち良くしてあげるよ」

ふぅ、ふぅ、ふぅ……
顔を横に倒され、乱れた横髪から覗く耳。
それに興奮したのか。厭らしい息を吐きながら窄めた舌を出し、じわじわと迫る。


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