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唯一の希望が、断たれてしまった。
実家に戻る選択肢を、希望と呼ぶのは可笑しいけれど。
このまま……ハルオのアパートに居候し続けるしかない。
──でも。
この三カ月間、何とかやり過ごせたとして。もし、僕が他の男性と一緒に生活していたとハイジが知ったら。
合鍵を持ち、お揃いのルームウェアを着て、同じ柄の茶碗で僕の手料理を毎日食べていたと知ったら……
考えただけで、ゾッとする。
嫉妬に狂ったハイジが、ハルオに襲い掛かって殴り殺し、裏切り者の僕の首を絞め殺すかもしれない。
そうされても仕方がないのは、解ってる。
けど、ハルオと僕を殺した後、冷静になったハイジはどうなってしまうんだろう。
今だって、僕のせいで辛い思いをしているのに。
また僕のせいで、……ハイジの精神まで壊れてしまったら──
*
南瓜のシチューを作ろうとして、牛乳が足りない事に気付く。
慌ててルゥを探すけど、この前の買い物で思っていたより高く、買い渋ったのを思い出す。
小麦粉とバターを確認してから、食費の入った財布を手にしてアパートを出た。
「……」
……何だろう。
ただそれだけなのに、心が軽くなって開放的な気持ちになる。
大きく深呼吸をした後、足先を駅前のスーパーへと向けて歩き出す。
ハロウィンモード一色の街並み。
小さな洋菓子店前に、ハロウィンカラーの立て看板にポップなデザインのイラストが描かれている。
入り口のガラス壁には、〈仮装したお子さんには、お菓子をプレゼント〉の文字があり、その下に仮装した子供の写真が幾つも貼り出されていた。
近くのクリーニング店では、店員が魔女の帽子を被って接客。
向かいのファミレスや、その先のコンビニでは、ハロウィンを意識した新メニューの幟が目立つ。
ただ、牛乳を買って帰るだけなのに。心なしか真面に息ができる。足取りも何だか軽い。ハルオの拘束から逃れ、束の間の休息を得たからだろうか。
……そう、思っていた時だった。
「よぉ、姫」
──ドク、ンッ
聞き覚えのある声に、心臓を打ち抜かれたような衝撃が走る。
「……」
でも、足を止める訳にはいかない……
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……
声の主なら、振り返らなくても解る。
──太一だ。
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