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50.最後の夜

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×××


 
「……っん、」

部屋に入るなり、ベッドに押し倒される。
掴まれた両手首を顔の横に縫い付けられ、早急に重ねられる唇。
それは、酷く乱暴で。荒々しくて。無理矢理歯列をこじ開けた熱い舌が、本能の赴くままに僕の咥内を嬲る。





夜の繁華街を駆け抜けたバイクが辿り着いたのは──紫とピンク色の妖しい光を放つ、煌びやかなラブホテル。
それは以前、初めて夜デートをした時に利用したホテルで。ハイジに全てを捧げた時の懐かしさが胸を擽る。

ハイジに手首を掴まれ、強引に建物の中へと引っ張り込まれる。
大きなパネルの前に立ち、ひとつだけバックライトの光る部屋の写真を見れば、モノトーンアーガイルのベッド後ろの壁に、不規則に重なったトランプと金色のアンティーク調の懐中時計が描かれていて。卵や兎、大きな鍵穴のオブジェを含め、まるでそこは……不思議の国のアリス。



……ハァ、ハァ、ハァ、

やけに耳に付く、布ずれの音と荒い息遣い。
咥内を弄るハイジの舌先が、逃げ惑う僕の舌根に絡み付く。その瞬間、脳内が痺れ、迷宮の渦に迷い込んだかのような錯覚に陥る。

カチンと歯と歯がぶつかり、直ぐに離れていく唇。鼻先三寸の距離を保ち、鋭く尖ったハイジが僕を捕らえる。

「どこ、触られた」
「……ぇ……」
「リュウさんに、どこを触られたんだよ!」

スクールシャツの襟元を左右に引っ張られ、ボタンがブチブチと弾け飛ぶ。
剥かれて、露わになる鎖骨と胸元。

「……っ、」

怒りに満ち満ちた眼。
傷害事件を起こした時と同じ。猟奇的で、邪鬼を孕んでいて──

「それとも、……無理矢理ヤられたンか?」
「……」
「言えよッ!」

──ビクンッ
怖くて、怖くて。ハイジを見つめながら小さく首を横に振れば、首筋や鎖骨に刻まれた赤い印を確かめるように、ハイジの指先が這う。

「……じゃあ、どこまで許したんだよ」

眉根を寄せ、鋭く吊り上がる双眸。
真っ直ぐに見つめるその眼の縁が赤くなり、潤んだように光る。

「……」

どうしていいか解らなくて。ハイジを見つめたまま、さっきよりも大きく首を横に振る。

もし、許して貰えないなら……何をしたっていい。
このまま首を絞めてもいいし、非道い事をしても構わない。
僕を、ハイジの好きなようにしていいから。だから……身体が勝手に震えてしまうのだけは……許して……


「………まさか、抵抗……したンか?」


ハイジの眼が、大きく見開かれる。信じられないと言わんばかりに。

怖ず怖ずと小さく頷けば、それまで尖っていた眼光が緩む。

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