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駅裏の飲み屋街にある大きな広場。夏場になると、ビアガーデン会場ともなる広い芝生の周りには、沢山の屋台と人々が集まって賑わっていたけど。──肌寒い今の季節は、数店の屋台しか見当たらない。

その内のひとつ。
厚手のビニール製の仕切りに囲まれた屋台の中に入ると、湿気を含んで緩んだ生温い空気に包まれる。L字型のカウンターの半分から奥は既に数人のお客で埋まっていて、談笑しながらラーメンを啜っていた。

「らっしゃい!」

カウンターの向こうに立つねじり鉢巻き姿のおじさんが、元気な笑顔で迎えてくれる。

「おっちゃん。ラーメン2つ」
「はいよ!」

ハイジが注文しながら、僕をカウンターの端に座らせてくれる。
仕切りのお陰で寒くはないものの、時折吹き込んでくる冷たい夜風に足下が冷える。

「……リュウさんが」

店主から受け取ったお冷やとおしぼりを、僕の前に置きながらボソリとハイジが呟く。

「お前のこと、可愛い女だってよ」
「……え」

可愛い……?
アパート前で、トンッと肩を押された光景が思い出される。
ガラス玉のような、無機質な眼──そんな素振り、全然なかったのに。

「変なの。……僕を、女の子と勘違いしてるのかな」

口角を少しだけ持ち上げ、そう返しながらも……思い出してしまう。

『この角度、アゲハに似てんな』──項に触れた指先。後ろから抱き締められ、激しく高鳴る鼓動がひとつに重なった時の……あの心地良い温もり。

「……」

……馬鹿だ、僕。
もういい加減、吹っ切れちゃえばいいのに。
いま、僕のそばにいるのは、ハイジなんだから。

「バァカ。ンな訳ねーだろ。……なぁ、おっちゃん」
「──ヘイ、お待ちぃ!……って、え。何の話?」

突然振られた店主は、苦笑いをしながらも出来立てのラーメンをハイジの前に置く。

「コイツがさ、女に──」
「……っ、やだ!」

恥ずかしくなって。止めようと、必死でハイジの腕を両手で引っ張る。
振り向くハイジ。懇願するように見上げれば、その視線とぶつかり、ハイジの動きが止まる。

「……」

その眼が僅かに揺れ、大きく見開かれる。と、直ぐに顔を逸らされてしまった。
先程まであった明るい雰囲気はすっかり消え、その横顔が、不安げで少しだけ思い詰めた表情へと変わる。

「リュウさんが、……お前の事、気に入ったんだってよ」
「……」
「品定めすっから、『貸せ』……って」


……え……


掴んでいた手から、力が抜け落ちる。

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