白くて細い、項

真田晃

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纏ったシャツからふわっとする、爽やかな香り。
瑠風のにしては、大きい気がする。
デザインも、匂いも……瑠風らしくない。

「……おっ、」

ダイニングキッチンを覗けば、何やらいい匂いが。
見れば、二人用のダイニングテーブルに並べられた──オムライス、スープ、付け合わせのサラダ。

「美味そう!」
「……恭平。確か、オムライス……好きだったよね?」

俺の声に反応し、振り返った瑠風が笑顔を見せる。

「一緒に、食べよ?」
「……お、おぅ」

予想外の展開に戸惑う。
思わず返事をしてしまったけど……

「てか、……従兄弟と食わねぇの?」

瑠風らしいデザインの部屋着。
サッと拭いただけなんだろう。雨に打たれた髪が、まだ湿っている。

「……うん、食べるよ。いつもは……」

視線を逸らす瑠風。背を向け、キッチン奥へと向かう。
食器棚からコップを二つ拾い、冷蔵庫から麦茶を取り出すと、ふとその手が止まる。


「今日は、……彼氏の所に泊まるみたい」


その背中が小さく、寂しそうに映る。


「……」


……ああ、そっか。

その寂しさを、俺で埋めたいって事か。





向かい合って座り、両手を合わせる。

「……いただきます」
「どうぞ」

スプーンを持ち、卵の薄皮を割ってオムライスを掬う。
それを口に放れば、不安そうな瞳を向けていた瑠風と目が合った。

「どう、かな」
「……ン……美味い」
「ほんと? 良かったぁ……」

瑠風が安堵の溜め息をつく。
ほっとしたのか。パアッと笑顔の花まで咲かせて。

「……」


……可愛い、よな。


手際は良いし、料理も美味いし。
意外と尽くすタイプだし。

あいつらの言う通り、男にしとくのはもったいねぇ。

「……そういや、さっきの話だけど」

スプーンを持った手をテーブルにつき、口の中を空にしてから、再び口を開く。

「この状況で一緒に住むの、キツくねぇ?」
「……」
「俺ん所に、来るか?」

核心をついてみれば、瑠風の表情がみるみる堅くなっていく。
向けられた瞳から光が失われ、頼りなく僅かに揺れた後、一線を引くように伏せられる。

「……」

……ヤベ。踏み込みすぎたか。

一瞬で変わる空気。気まずい沈黙。
瑠風から目を逸らすと、分が悪そうに襟足を掻く。

「………振られた、訳じゃないんだ」

ふるふると小さく頭を横に振った後、瑠風が口の端を少し持ち上げてみせる。言いにくそうに。笑顔まで作って。

「……」

だけど。その瞳は憂いを帯びながらも、複雑な色をしていて。

「寧ろその逆。
……僕とは、秘密の恋人っていうか……」
「……」

秘密の恋人……?
何だよそれ。浮気相手……って事だよな。

……瑠風は、そんなんでいいのかよ。
いいように利用されてるだけだろ。


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