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菊地編

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「その悪趣味な野郎は、今何処にいるんだ?」
「……奥の個室よ。そこで美女達とお戯れになってるわ」
「悪趣味だな……」
「でしょ?」

口角を持ち上げた倫の瞳が、ふっと淋しそうな色を宿す。
それが何だか、菊地に縋っているようで……

不安に駆られ、繋いだままの手に少しだけ力を籠める。
それに気付いたのか……答えるように、ギュッと握り返してくれた。

「……倫」

まだ話し足りなさそうな倫を制し、菊地が真面目な表情に変わる。それに勘付いたのか。つられて倫も、真面目な顔で菊地を見つめ返す。

「改めて紹介する。
工藤さくら──俺のオンナだ」

繋いでいた手が離され、直ぐにその手が僕の肩に回る。驚く間もなく強く抱き寄せられ、気付けば菊地の腕の中にすっぽりと収まっていた。

「……え」

間近で感じる、菊地の匂い。体温。少し速い鼓動──
それらが重なり、どうしようもなくドキドキと胸が高鳴る。


……これって……
僕が不安に思ってるから、ケジメを付けたって事……?

菊地を見上げれば……目に映るのは、何時になく真剣な横顔。
その鋭く見据えた眼は、これ以上に無い程強い意志を持っていて……


……ドクン、ドクン……


さっきよりも激しく、強く、鼓動を打つ。

菊地の周りだけがキラキラと輝いて見え……


もう、目が離せない………



「……て訳だ。悪ぃな」
「そう……」

ふぅ、と倫が、細く長い溜め息をつく。
揺れた瞳から光が消え、一瞬、虚ろげな影を落とす。
それを隠すためか。直ぐに口角が少しだけ持ち上がる。でもそれは、脆くも哀しげで、儚げな笑顔……

「私を上手く、利用できたようね……」
「………」
「……ごめんなさい。今の言葉、忘れて」

目を伏せた倫の声が、消え入りそうな程弱々しい。
何だか少し、震えていたような気がした。


「……」

本当の所は解らない。
ただの勝手な想像でしかないけれど……

僕が菊地の前に現れるまで、二人はきっと、いい雰囲気だったんだろう。

それを、僕が壊してしまった──そう思ったら……胸が少し、痛い……


「それじゃ。……パーティー、楽しんでいってね」
「……ああ」

視線を戻した倫の表情は、もう既に営業スマイルへと切り変わっていた。

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