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菊地編
187.
しおりを挟むはぁ……はぁ……
「………可愛いな」
息が整わないまま、瞼を薄く開ける。
蕩けた瞳を向ければ、僕をトロトロに甘やかす瞳が覗き込んでいた。
「イった顔も、声も……」
「………ゃだ……、」
軽く折り曲げた四本の指。その背を僕の頬に当て、こめかみへと滑らせると、横髪に絡ませ愛おしげに梳く。
「……嫌か?」
ふっと笑い、軽く落とされるキス。
物足りなかったのか。暫く間近で瞳を合わせた後──肩、鎖骨、頬、鼻先、と啄むようなキスの後、唇を重ね、舌を絡めた深いものへと変わる。
甘い匂い。
シーツの擦れる音が、やけに耳についた。
「……五十嵐と、なんかあったか?」
バスルームに引っ張り込まれた僕は、壁に手を付いてお尻を突き出し、ナカを掻き出されていた。
「………べつ、に……」
何事もなく答えるものの、鉛を飲み込んだように胃が重くなる。
サイドテーブルの引き出しに隠した、白い粉。……見つかる前に、早く捨てなくちゃ。
「お前、五十嵐とはどんな関係だ」
「……え」
菊地の唐突な言葉に弾かれ、顔を上げて振り返る。水飛沫が、濡れた髪の毛先から飛び散る。
ザァ──ッ
シャワーヘッドを持つ、菊地の腕が下がる。渦を巻き、排水口に吸い込まれる湯水。
同じ学校の生徒──同級生。
そんな事は、既に調べ上げて解っている筈。
なのに、どうしてわざわざそんな事を、僕に………?
間近でぶつかる視線。
僕を見据える双眸。
まるで何かを探っているよう。
これ以上僕の心を丸裸にされたら──もう、何も隠せない……
「……」
「………まぁ、いいや」
静かに指が引き抜かれる。割れ目にシャワーが当てられ、綺麗に洗い流された。
一瞬漂った、妙な空気。
それが払拭された、……のかは解らないけど、身体から緊張感が抜ける。
「別に、責めてる訳じゃねぇ……」
そう言い、相変わらず鋭い目付きのまま、僕の項にシャワーを当てる。水圧の強さと温かさ。少しだけ冷えた身体が、温もっていく。
「……ん、」
菊地のこういうさり気ない気遣いが、好き。がさつで乱暴な所はあるけれど、僕の事を考えてくれて、想ってくれてるのが解る。──心を擽られるように、心地良い。
「……今日、さくらを五十嵐に預けたのは、あのままお前を逃がそうと思ったからだ」
……え……
どうして……
ズクン、と胸の中が疼く。
確かに僕は、抱かれる為にここに来た。それが果たされれば、直ぐに解放されるものだと思ってた。
………だけど、今は違う。
ここを離れたくない。捨てられたく、ない………
「五十嵐がお前と一緒に逃げたがってんのは、前々から気付いてた。
それが単なる正義感だけじゃない事もな」
「……」
僕の頬を撫で、菊地が寂しそうに口端を少しだけ上げた。
「お前が五十嵐を、ベッドの上で色っぽく誘ってたのを思い出すと……
もしかしたらお前も……そう望んでるんじゃねぇかって思ってよ……」
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