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菊地編

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早朝にも関わらず、ウザいくらいの熱血口調。加えて優等生ぶった、爽やかな声色。
奴の声を聞いただけなのに、寝起きからドッと疲れたような気がする。

「……」
「開けるけどいいか?……入るぞ!」


そう言われて、やっと自分の身形に気付く。
ケットの下は、全裸。

交接行為はなかったけど。フェラチオを二回程し、全身をくまなく愛撫され、素股を何度か……

そのまま眠ってしまったようで、ティッシュで軽く拭き取られてはいるものの……乾いた精液が身体中にこびり付いていて、パリパリとしている。


ガチャッ……

開かれたドアから現れる、五十嵐のシルエット。
その背後からは、眩い程の、朝日……

ゆっくりと横向きのまま身体を起こせば、ケットがスルリと素肌を滑り落ち、腰の辺りで留まる。
腰までの上半身が剥き出しになると、目が合った五十嵐の視線が徐に下がった。


「……ぉわっ、と……!」


絵に描いた様なコミカルな動き。驚いた表情のまま軽く両手を上げ、数歩後退る。
このまま入っていいものか、躊躇しながらチラリと僕を見た。

「………なに?」
「な、何って……、か……隠せよ。
……そういう、生々しいの……」


生々しい……?

五十嵐の視線の先にある、胸の辺りに指を添える。
そこにあったのは、もうだいぶ薄くなった、ハイジのキスマーク。

「……」

ああ、これの事……?
これの何処が生々しいんだろう。

学校でも特に隠した事なんてないし、そういう意味で騒がれた事もない。
……確かここで会った日も、これを見なかったっけ……?

それに、上半身裸でも男なんだから、別にどうって事ないと思うけど……

「……いいか、入るぞ。……か、隠しとけよ……!」
「うん……」

顔ごと視線を逸らし動揺する五十嵐に答えながら、ケットを引っ張り上げて身体を包む。




中に入った五十嵐は、僕に背を向けサイドテーブルの上を片付け始める。
大きめのビニール袋に次々と残骸を放り込み、近くにあったウエットティッシュでテーブルを拭き取る。

その慣れた手つきをぼんやりと眺めていると、五十嵐の動きが急に止まった。

「……なぁ、工藤。
お前、どっか行きたい所とかある?
ゲーセンとか、カラオケとか、……何でもいい。どっかないか?」

拭き終わって汚れたウエットティッシュを、言い終わると同時にゴミ袋に放り込む。それから小さなゴミ箱を拾いあげ、精液の匂いがするだろうティッシュの山も放った。

「菊地さんに頼まれてさ。……工藤を外に連れ出して、気晴らししてやってくれって」
「……」


どういう、風の吹き回しなんだろう……

五十嵐と外出するよう、取り計らうなんて。


もし僕が、そのまま逃げたら……とか、考えたりしなかったんだろうか……



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