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ハイジ編
81.
しおりを挟む『……ハイジはよォ……俺らをよくここに呼び集めて、これと同じ首輪をしたオンナを輪姦させてんだぜ』
──クラブで太一に言われた台詞が蘇る。
大音量の音楽が鳴り響き、多彩なディスコライトが踊り狂う中……後ろから抱き締められ、耳元で吐息混じりに囁かれた低い声まで、一緒に。
もし、一年前の僕なら……
ハイジがそんな事する訳ないって、突っぱねてたのに。
今のハイジでは、容易に想像できてしまう……
それが何だか、悔しい。
「……」
「じゃあさ、なんかあったら連絡して」
そう言ってホストが内ポケットから取り出したのは、一枚の名刺。
「これ、渡したい所だけど……証拠残す訳にはいかないから。
番号、今ここで覚えてよ」
その藍色の名刺には、プラチナ色した小さな月と宝石のように輝く星が散りばめられ、真ん中には同系色で『麗夜』の文字。
その下には、携帯番号とアドレス。
その11桁の数字の羅列を、何度も目でなぞりながら頭の中に入れ込む。
「……そういえば、復帰するんだってね。アゲハ」
「え……」
見開いた目を、麗夜に向ける。
アゲハが、芸能界に復帰?
「来期のドラマと、来年公開予定の映画に急遽出る事になったらしい」
「………」
夢の中では、血塗れだった──
でも、思い返してみれば……約束したピアスを、返して貰っていたんだっけ。
……そっか……
良かった。
「………!」
ホッと胸を撫で下ろし、安堵の溜め息をつく僕の頭に、麗夜の手がそっと乗せられる。
なんでそんな事をされたのか……解らない。
でも……
麗夜は僕を見ながら、僕の中のアゲハを見ているような気がする。
同期とか友達とか……僕にはそういった類の相手はいないし、いた経験もない。
……でも。アゲハの周りには沢山の友達がいて、慕ってくる仲間がいて……
やっぱり、羨ましい。
「……アゲハに、会ったの?」
目を伏せ、麗夜から視線を外す。
苦し紛れに、吐いた言葉。僕とアゲハの差を、見せ付けられた気分。
だけど、もう前みたいに妬んだり恨んだりなんかしない。
「……いや。たまに生存確認するくらいかな。もう俺とは、住む世界が違うしね」
麗夜が電話を掛けるジェスチャーをしてみせる。
「じゃなくても、俺の所にアゲハの話題なら舞い込んでくるし。
一応これでも、ナンバースリーで。太客の中に芸能関係者がいるしね」
「………」
僕には、友達という感覚が解らない。
だから、凄く:単純《バカ》な事を思ってしまうんだけど……
多分、この人
アゲハの事、好きなんだな……
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