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ハイジ編
57.
しおりを挟む『 ……お兄ちゃんが、守るからな 』
いつだったか……
アゲハのいないベッドに忍び込み、泣き疲れて眠る僕の髪を優しく撫でてくれた。
温かくて、擽ったくて、切ない程心地良くて……
心地良い、アゲハの手。
その手が、薄闇の中……必死に出口へと指し示して……
『───逃げろッ!! 』
……どうして……
ここに引き込んだのは、僕なのに。
なんで、こんな僕を───
「……さくら」
身体を、小さく揺らされる。
次いでその手が、僕の髪にそっと触れた。
「大丈夫か? 随分うなされてたけど……」
アゲハではない声に、パチンッと瞼が開く。
「……」
半分ほど開かれた、遮光カーテン。その隙間から覗く白いレースカーテンが、月明かりでぼんやりと蒼白く光っていた。
……夢……か……
あんな夢を見たのは、この光のせいかもしれない。
「……震えてンぞ」
ハイジの指先。それが、僕の横髪を梳きながら耳に掛け、脇腹からそっと腹お腹の方へと滑り下りる。
きゅっと背後から抱き締められ、ハイジの温もりに包まれる。
「怖い夢でも、見たのかよ」
ハイジの匂い。項に掛かる熱い吐息。
お腹に回ったハイジの手が僕の手の甲を見つけ、優しく包む。
「……ううん」
「じゃあ、何だよ」
「……」
その温もりは、僕を安心させてくれる。
事情を知らない筈なのに。大丈夫だと言っているようで。
胸の奥にある柔らかな部分が、きゅうっと締め付けられる。
……ハイジ……
瞼をそっと下ろす。
と、その裏に、先程の光景が容赦なく映し出され──
ぽろっ……ボト、 ぐちゃ。
血濡れて……
それでも僕を助けようと、懸命に手を動かすアゲハ。
「………オレの、せいか?」
囁くような声。
何処か虚ろげで……弱々しい。
「そんなに、怖ぇか……オレが」
何処か諦めた様な、寂しい声。
握られた手が不意に解かれ、布擦れの音と共にハイジの温もりが消えていく。
『………なん、で……だよ……
なんで助けたオレを、そんな瞳で見ンだよ………!!』
瞬間──幼いハイジの叫び声が聞こえたような気がした。
「……」
……違う……
違うよ……ハイジ。
ハイジの方へと向きを変え、その温もりを追いかける。
腕を伸ばし、ハイジの背中を捉えると、遠慮がちに身を擦り寄せた。
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