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ハイジ編

32.

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……シャラ、

飾りの鎖が揺れ、小さな音が響く。
その度に、僕がハイジの所有物であるという事を、思い知らされる。

「……痛く、ねーか?」

浴槽の中……背後からハイジの身体にすっぽりと収められ、強く抱き締められる。

竜一とは違う。竜一よりも細く、だけどしなやかで、適度に筋肉の付いた男らしい腕。

「……」
「なんか、喋ってくれよ」

僅かに寂しそうな声。
ハイジの指先が、僕のフェイスラインをそっと撫でる。その行為が、僕の気持ちを探っているんだって事は……解ってる。

「……なぁ、さくら」
「……」
「オレと離れてから、今までどうしてたんだよ」


ちゃぷ、ん……

浴槽内のお湯が揺れ、水音が浴室内に響く。


『オレ、今度……ヤベぇ仕事すンだよ』──ハイジと別れる事になったのは、去年の晩夏に起きた傷害事件のせい。
そのキッカケを作ってしまったのは、浜辺で二人組の男に声を掛けられた……僕のせい……


折り畳んだ膝に手を掛け直せば、また水面が揺れて水音が響く。

「……どうせ、知ってるんだよね」
「まぁ、な。大抵の事は。……でも、」
「それなら……聞かないでよ」

樫井秀孝の一件から、僕はもう何度もマスコミに取り上げられてる。
凌の事や、若葉の事も。裏社会に生きてる人間なら、一度は耳にしている筈……

「拗ねンなよ」
「……」
「オレは、樫井の話を聞くまで……さくらが堅気の世界へ戻って、幸せに暮らしてるモンだと思ってたし……そう信じてたんだぜ……」

探るような指が止まる。


「……あぁクソッ、やっぱすげぇムカつく!」


その指先が、小刻みに震える。

「媚薬使って、さくらを思い通りにしやがって! ぜってーぶっ殺してやる!」

怒りで震える声。
今のハイジでは、冗談にもならない……

「……ハイジ」
「あン?」
「そういうの、止めてよね」

僕の身体を包む、ハイジの腕にそっと触れる。


あの日──僕に声を掛けた、金髪の成りの果てを思い出す。


……ごめん、ハイジ……

ハイジは今でも、こんなに僕を思ってくれているのに


……僕は……



「……!」

ハイジの指先が顎先の方へと移動し、親指の腹で下唇をそっとなぞる。まるで、紅を引くかのように。


「……だったら、しようぜ」


硬く主張したハイジのモノが、僕の腰に当たっているのに気付く。

首を竦めれば、僕の立場を思い出させるかのように首輪の鎖が揺れ、小さな音を立てた。


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