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プロローグ
23.
しおりを挟む「……!」
この空間では似つかわしくない、異様な音。
即座に反応した男が、屈めていた背筋を伸ばす。
……コツ、コツ、コツ、コツ、
近付いてくる靴音。
やはり、この空間では似つかわしくない。
それに警戒するかのように、だけど僕から退くつもりはないのか──部屋の入口へと顔を向け、じっと様子を覗うように見据えていた。
……コツ、……
靴音が、止まる。
と、僕の膝に触れていた男の指が、途端に小刻みに震えだす。
胸の前に構え直し、握り締めていたカッターも、大袈裟にブルブルと震えている。
「………ん? 何だテメェらは……」
低くドスの利いた声。
高級スーツ。オールバック。見るからに、如何にも……といった雰囲気を醸し出したガタイの良い男が、革靴を履いたまま部屋の中へと再び足を踏み入れる。
「……って。ちぃっとばかし、穏やかじゃあねーみてぇだな」
コツ、コツ、コツ……
強い威圧感。だけど、怒鳴り散らす訳でもなく顎を少し突き出し、興味など無さそうな冷めた眼で作業員と僕の様子を俯瞰している。
その背後から、スッと現れる男性──黒スーツ。無機質に見える白金の長い髪。恐らく、玄関のドアチェーンを切ったであろう大きなボルトクリッパーを肩に担いでいた。
「……さくらっ!?」
その男が大きく目を見開き、僕の名を叫ぶ。
まだ息すら真面に出来ない僕は、それに反応し、ゆっくりと瞬きをしながら黒眼だけを小さく動かす。
……え……
なん、で……
幻影なんかじゃない……
夢とは全然違う……
「……、っ!」
驚いた男の顔が、一瞬で引き締まる。
その刹那──見開かれていた瞳は細く、何処までも吊り上がり、何の感情も持たない深い闇へと濁る。
───ガッッ!!
足早に近付き、担いでいたボルトクリッパーを片手に、作業員の額をフルスイング。
サァァッ、
辺りに飛び散る血──男の頭が、後方へとふっ飛ばされる。
「……」
その、躊躇のない攻撃は……
カッとなったら、何をしでかすかわからない……
「……おーおー。随分と派手にやったなァ、ハイジ」
ハイジ……
……生きて、た……
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