さくらと竜。

真田晃

文字の大きさ
上 下
29 / 29

5

しおりを挟む


さわさわ、さわさわ……

上空の小枝が揺れ、木葉の擦れる音が響く。
地上の夜風が頬を撫でるより先に、辺り一面に舞う──薄ピンク色の花びら。


「……綺麗」

夜空に浮かぶ満月の下、淡く蒼白い月光が降り注ぐ中、風に舞ってひらひらと散りゆく様は、何とも幻想的で。

「ああ……」

そう言って微笑む、竜一の横顔。


好きな人の隣で、同じ景色を眺める──只それだけで、充分幸せに感じる。
だけど。それだけじゃ足りない時もあるから。その時々で、この思いをちゃんと言葉にして伝えなくちゃ。


僕に触れる前に引っ込められてしまった、竜一の手。片手でそっと拾い上げて引き寄せる。

「………大好きだよ、竜一」

厚みのある、大きな手。
両手で優しく包み込めば、手のひらから陽だまりのような優しさが伝わってくる。

「宇宙一、好き」

物理的に少し空いた距離が恨めしくて。お尻を詰め、竜一に寄り掛かり、その肩にそっと頭を預ければ……手中にあった大きな手が動き、指を絡めた恋人繋ぎへと変わる。

「もう、離れたくても……離れてやらねぇからな」

ぶっきらぼうに。だけど、少しだけ照れたような竜一の声。その問いかけに、小さくこくんと頷く。

「……うん」
「俺が嫉妬深ぇの、知ってんだろ?」
「うん……」
「……覚悟、できてんだろうな」
「ん、」
「本当に、解ってんのか?」
「解ってる」

竜一をそっと見上げれば、僕を見下ろす竜一の瞳が、甘く蕩けた色をしていて。言葉以上の優しさと愛おしさが、その眼差しから溢れんばかりに伝わってくる。

「一生、俺の傍にいろよ」
「ん……」

キュッと握られる手。もう片方の竜一の手が、涙でしっとりと濡れた僕の頬を優しく包み……視界いっぱいに、竜一の顔が迫る。

そっと瞼を閉じれば、さわさわとなびく風に乗って、熱くて柔らかな唇が舞い降り……そっと唇に重ねられた。





♡Happy blooming♡


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...