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しおりを挟む竜一は、知ってた。
あのパーティーで、一体何があったのか。
知らなかったのは──僕だけ。
「………だから、突き放そうとしたの?」
やっとの思いで絞り出した声は、酷く震えて。
堪えようとすれば、喉がきゅっと絞まって……上手く声が出てきてくれない。
「竜一はもう、僕のこと……嫌いになった?」
絶望を知らせるかの如く、激しく鳴り響く心臓。
苦しくて……浅くなってしまう呼吸を、胸を押さえて何とか落ち着かせる。上擦りながらも、肺の中いっぱいに息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「……本当に、何にも覚えてないの。
あの日──甘酒を沢山勧められて、……気付いたら、パーティーが終わるまで眠ってて。
家に帰ってから、身に覚えのないキスマークに気付いて……ゾッとした。
何でこんなものがあるのか、全然解んなくて。もし竜一が知ったら、僕を軽蔑して、嫌いになっちゃうんじゃないかって。
そう思ったら……怖くて、言えなかった」
「……」
「ごめんね。ちゃんと……話せなくて」
隠さなければよかった。
ちゃんと、正直に話しておけばよかった。
そのせいで、竜一に嫌な思いをさせてしまった。
関係を拗らせたのは──僕だ。
「……」
もう、何の跡形もない首筋。
消えてしまえば、全部無かった事になるんじゃないかと、心の何処かで願ってた。
……そんな訳、ないのに。
俯いた瞳から、ぽろぽろと涙の滴が零れ落ちる。
──ハァ、
隣から聞こえる、大きな溜め息。
「別に、嫌いになった訳じゃねぇ」
「……」
「もしもこの先、杉浦が彼女と別れて、お前に告白でもしたら……俺が、邪魔になるんじゃねぇかと思ってよ」
「……!」
驚いて顔を上げれば、上体を起こし、シニカルな笑みを浮かべる竜一が力無く僕を見下ろしていた。
全てを諦めたような、弱々しい瞳で。
「……邪魔に、なんて……!」
思わず、大きな声が出てしまう。
鼻の奥がツンとし、涙で視界が歪んでいく。
「竜一が邪魔になんて、全然思わないよ!」
いつから──竜一は、知ってたんだろう。
去年の夏頃まで、僕が、夏生に想いを寄せていた事に。
「確かに、夏生にそんな事されたら動揺するよ。……でもそれは、夏生に未練があるとかじゃなくて……」
「……」
「二人には、別れて欲しくないって……思ってるから」
「……」
少しだけ見開かれた竜一の眼。
合わせていた竜一の視線が外れ、再び前方へと顔を向けてしまう。
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