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「……でもまさか、ホントに酔うとはねぇ」
麻里子の部屋のベッドで、すやすやと眠るさくら。その寝顔を眺めながら、麻里子がぽつりと呟く。
「にしても。幾ら可愛いからって、襲うとかありえないから。
バツとして、おねーちゃんの代わりに夏生がケーキ受け取ってきなさい」
「……」
キッと睨む麻里子が、引換券を押しつけてくる。
「ってか、オレがいねー間に……襲うなよ」
「──バカッ。あんたじゃあるまいし。私が彼氏一筋なの、知ってるでしょ?」
「……」
知ってる。
小5からずっと想い続けて、中1で結ばれてから丸6年。
トータル8年か。長ぇな……って。オレも人の事言えねーけど。
「ごめん、ねぇちゃん。……オレ、やっぱ………」
言いかけて、止める。
今更、何言おうとしてんだ……オレ。
これまで何とか、やり過ごしてきたんだろ。
あの日──無自覚だったとはいえ、那月にプロポーズをしてからずっと、諦める努力をしてきた。
結局これが、最善な道なんだって。何度も何度も、自分に言い聞かせながら。
男同士──叶わないと諦めて、一度は手放そうとした初恋。それを、ポッと現れた野郎に、あっけなく奪われるなんてな──
「……ねぇ、夏生」
引き換え券を持つ手に力が篭もり、押し黙ったまま俯いていれば……堪えかねた麻里子が溜め息をつく。
「誰も傷つかない恋愛なんて、この世にあると思う?」
「……」
「妥協も時には大事。だけど……自分の人生を犠牲にしてまでする事じゃない」
「……」
「まっ、夏生がどんな決断をしようと、誰が何と言おうと……私はずっと、夏生の味方だからね」
「──!」
時々麻里子は、オレの気持ちを汲み取って、欲しい言葉をくれる。
迂闊にも鼻の奥がツンとし、涙で視界が滲む。
「………な、何でもねーよ」
悟られないよう、直ぐに背を向け部屋を出る。
でも、姉貴の事だから……見抜いてんだろーな。
「んじゃ、宜しくね~!」
いつもと変わらない、麻里子の明るい声。
それが酷く、オレを安心させてくれる。
──でも。
臆病なオレは、多分……この一線を越えられそうにない。
さくらを想えば想う程、脳裏にチラついてオレを責める。
あの日──庇った時に出来たであろう、腕の痣を隠しながら……酷く泣きじゃくる那月の姿が。
to be continue……?
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