9 / 29
3
しおりを挟む「……あっ、これは──」
弁解しようとすれば、夏生の手が伸び、箱を持つ僕の手を包んで……
「も、貰ったん……、だけど……」
「……へぇ。誰から?」
耳元を擽る、夏生の吐息。
何時になく意地悪い言い方と、意地悪げに身体を密着させる行為に、胸の痛みと妙な昂りが相まって……
「………はな、してっ、」
身を縮め、逃れようとすれば……それを許さないとばかりにもう一方の手が僕の肩を掴み、両方の手に力が籠もる。
「ダメ。離さない」
「……」
「……教えて、さくら」
俯き、剥き出しになった項に、迫った夏生の吐息が掛かる。
「ね、」
揺れる、視界。
足元がぐらぐらして……立ってられない。
「……」
こんな事、口にしたくない。
思い出したくもない。
だけど──
一度目に焼き付いてしまったら……もう、消去しようがなくて。
「………桐谷、さん」
少しだけ、震える声。
口にしてしまった事で、じわじわと現実味が増していく。
指先から感覚が無くなっていくのに……呼吸も、身体も、小刻みに震えて………
「───は、?」
それまで。何処か意地悪く僕に絡んでいた夏生が、突然素に戻る。
「マジで、桐谷さん……?」
「………うん」
こくんと頷けば、まだ俄に信じがたいのか、夏生の言動が止まる。
「……」
次第に緩み、離されていく手。
それに驚いて夏生を見上げれば……何処か深刻そうな表情をしていた夏生が、パッと笑顔で隠す。
「それ。要らないなら……オレにくれ!」
「……え」
いつもの……人懐っこくて、人当たりの良い夏生が、満面な笑みを浮かべながら両手を出し、チョコをせがむ。
──もしかして、夏生も……?
はにかんだ桐谷さんが、竜一を上目遣いで見る光景が思い出される。
「うん……、いいよ」
竜一に渡す筈だった、チョコレート。
複雑な心境を隠すように、笑顔を浮かべながらそう答えると、夏生の両手の平にそっと乗せた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる