37 / 62
スプーン 快晴 金平糖
しおりを挟む
**
「……」
大輝からの、突然の誘い。
待ち合わせ場所は、最寄り駅から乗り換え含めて一時間程かかる、駅の改札口前。
空は見事な快晴。トートバックの中には、頼まれていた二人分のお弁当。
「………」
……遅いなぁ。
駅構内にある時計を見れば、約束の時間を三十分も過ぎている。待ち合わせ場所や時間を間違えたのかと、不安になって落ち着かない。
電車が到着したというアナウンス。キョロキョロと辺りを見回せば、その集団の中に、見慣れた人物がいて──
「……!」
ロゴ入りの白シャツに、キャメル色のスエットパーカー。いつものお堅いスーツとは違い、柔らかな印象の……誠。
──ドクンッ
大きく、胸が熱く高鳴る。
「……お久しぶりですね」
目を逸らせずにいる僕に、改札を抜けた誠が満面の笑みを浮かべて見せる。
でもそれは……爽やかながら、何処か壁を感じるもので……
「……」
タクシー内での出来事が思い出され、金平糖のような甘くて柔らかい棘が、胸の奥に突き刺さる。
……やっぱり、あの時……
首筋に付けられた痕を思い出し、手のひらで覆いながら俯く。
ブブブブ……
唐突に震えるスマホ。確認すれば、それは大輝からで。
《行けなくて、ごめんね》
……え、何それ……!
無情な一文に頬を膨らませると、視界の端に誠の靴が入り込んだ。
「……もしかして、浜田くんとここで待ち合わせですか?」
「……え、」
驚いて顔を上げれば、瞬きを数回しながら誠が視線を逸らす。
「実は、浜田くんとここで会う約束をしていたのですが……
……その、代わりに成宮さんと行って欲しいと、今、連絡が入りまして……」
「──!」
大輝……もしかして、また……
『……もう双葉を、自由にしてやってよ 』
『浮気したら、ぜってー許さねぇからな』
大輝と悠の言葉が、ぐるぐると脳内で渦巻く。
スプーンで掻き混ぜた褐色のコーヒーに、白色のクリームを流し込んだみたいに……
駅を出て少し歩いた所にある、動物公園。小規模ながら週末とあって、人の出入りが多い。
入園の手続きを済ませ、誠と共にゲートを潜る。
……悠……ごめんね。
これは、裏切りじゃないから……
心の中で懺悔をしつつ辺りを見渡せば、多くの家族連れ──赤ん坊を抱っこする夫婦や、燥ぐ子供と手を繋ぐ親子の姿が目に飛び込む。
次第に失っていく、色彩。
……悠にも、いるのかな……赤ちゃん……
別に居てもおかしくはないのに。仲睦まじい姿を想像し、胸の奥がチクンと痛む。
次第に狭まっていく視界。失っていく平行感覚。
遠退いていく、意識と喧騒──
嫌いで別れた訳じゃない。寧ろ、痛い位に真っ直ぐ、今も僕の事を想ってくれてる。
……でも……
そんなの許されない。悠が結婚している限り……
目の前が、マーブル状に歪んでいく。
指先が痺れて……息が……苦しい……
空はあんなに蒼かったのに。澱んで今にも雨が降り出しそうで。
不毛な思考ばかりが蔓延って、僕の心に暗い影を落とす。
重苦しさを感じていれば──不意に訪れる、違和感。
「……え、」
驚いて誠を見る。
苦慮する僕に、誠の優しい瞳が向けられ……
僕の手首に、誠の指が絡んだ。
「……」
大輝からの、突然の誘い。
待ち合わせ場所は、最寄り駅から乗り換え含めて一時間程かかる、駅の改札口前。
空は見事な快晴。トートバックの中には、頼まれていた二人分のお弁当。
「………」
……遅いなぁ。
駅構内にある時計を見れば、約束の時間を三十分も過ぎている。待ち合わせ場所や時間を間違えたのかと、不安になって落ち着かない。
電車が到着したというアナウンス。キョロキョロと辺りを見回せば、その集団の中に、見慣れた人物がいて──
「……!」
ロゴ入りの白シャツに、キャメル色のスエットパーカー。いつものお堅いスーツとは違い、柔らかな印象の……誠。
──ドクンッ
大きく、胸が熱く高鳴る。
「……お久しぶりですね」
目を逸らせずにいる僕に、改札を抜けた誠が満面の笑みを浮かべて見せる。
でもそれは……爽やかながら、何処か壁を感じるもので……
「……」
タクシー内での出来事が思い出され、金平糖のような甘くて柔らかい棘が、胸の奥に突き刺さる。
……やっぱり、あの時……
首筋に付けられた痕を思い出し、手のひらで覆いながら俯く。
ブブブブ……
唐突に震えるスマホ。確認すれば、それは大輝からで。
《行けなくて、ごめんね》
……え、何それ……!
無情な一文に頬を膨らませると、視界の端に誠の靴が入り込んだ。
「……もしかして、浜田くんとここで待ち合わせですか?」
「……え、」
驚いて顔を上げれば、瞬きを数回しながら誠が視線を逸らす。
「実は、浜田くんとここで会う約束をしていたのですが……
……その、代わりに成宮さんと行って欲しいと、今、連絡が入りまして……」
「──!」
大輝……もしかして、また……
『……もう双葉を、自由にしてやってよ 』
『浮気したら、ぜってー許さねぇからな』
大輝と悠の言葉が、ぐるぐると脳内で渦巻く。
スプーンで掻き混ぜた褐色のコーヒーに、白色のクリームを流し込んだみたいに……
駅を出て少し歩いた所にある、動物公園。小規模ながら週末とあって、人の出入りが多い。
入園の手続きを済ませ、誠と共にゲートを潜る。
……悠……ごめんね。
これは、裏切りじゃないから……
心の中で懺悔をしつつ辺りを見渡せば、多くの家族連れ──赤ん坊を抱っこする夫婦や、燥ぐ子供と手を繋ぐ親子の姿が目に飛び込む。
次第に失っていく、色彩。
……悠にも、いるのかな……赤ちゃん……
別に居てもおかしくはないのに。仲睦まじい姿を想像し、胸の奥がチクンと痛む。
次第に狭まっていく視界。失っていく平行感覚。
遠退いていく、意識と喧騒──
嫌いで別れた訳じゃない。寧ろ、痛い位に真っ直ぐ、今も僕の事を想ってくれてる。
……でも……
そんなの許されない。悠が結婚している限り……
目の前が、マーブル状に歪んでいく。
指先が痺れて……息が……苦しい……
空はあんなに蒼かったのに。澱んで今にも雨が降り出しそうで。
不毛な思考ばかりが蔓延って、僕の心に暗い影を落とす。
重苦しさを感じていれば──不意に訪れる、違和感。
「……え、」
驚いて誠を見る。
苦慮する僕に、誠の優しい瞳が向けられ……
僕の手首に、誠の指が絡んだ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。
慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています
岩永みやび
BL
この世界は、前世で読んでいたBL小説の世界である。
突然前世を思い出したアル(5歳)。自分が作中で破滅する悪役令息リオラの弟であることに気が付いた。このままだとお兄様に巻き込まれて自分も破滅するかもしれない……!
だがどうやらこの世界、小説とはちょっと展開が違うようで?
兄に巻き込まれて破滅しないようどうにか頑張る5歳児のお話です。ほのぼのストーリー。
※不定期更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる