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何で……

ソラの言葉に、切ない程胸を打たれながらも、ざわざわと胸騒ぎがする。
ふと脳裏を過ったのは──体調を崩して入所したという、絵葉書の文面。

「……」

何処かで、聞いた事がある。
治る見込みのない患者が、穏やかな余生を過ごす為の施設があるって……

「ずっと、伝えたいと……思ってたんだ。
……だから、まさかヒロの方から、会いに来てくれるとは思わなくて……」

小さく震える、ソラの肩。
そっと触れれば、見た目よりも随分と痩せ細っている事に気付く。

「……」

どうして……躊躇なんかしていたんだろう。
なんでもっと早く、ソラに会いに行かなかったんだ……

もっと早く、気付いていればよかった。
少し……ほんの少しでいいから、一歩を踏み出す勇気があればよかった。

そしたら、ソラは───


「───、俺だって!!」


良く、解らない──腹の底から湧き上がってくる熱い何かが、俺を大きく突き動かす。

「俺だって、……同じだよ。
いつもソラを、近くに感じてた。
俺の心ごと、優しく受け止めてくれるソラからの返事が、嬉しくて。いつも待ち遠しくて。次は、何を話そうかって……、そんな事ばっか考えてた」
「……」
「だから……!
……だからもし、ソラがいいと言うなら。……また、ここに来るよ。
何度でもソラに、会いに行くよ!」

声が、震える。
溢れてくる涙を……止められそうにない。
それに気付いたのか。ソラの手が、肩に置いた俺の手に触れ、俺を探すように涙で潤んだ瞳を向ける。

「それで………ソラが聞きたい話、いっぱいするから……!」


だから──どうか、死なないで……

……生きて──!







ザザ…、ザザザ……
波打ち際で水を掛け合い、燥ぐ二つの人影。
燦々と輝く太陽の下で、楽しそうに笑い合う少年達。


窓から吹き込む風に靡き、ひらひらと床に舞い落ちる絵葉書。
白衣を着たおばさんが、病室のベッドメイクの手を留めて、拾い上げる。

「………あら、忘れ物かしら」

それは、窓から射し込む晩夏の斜陽が見せた幻か。
宛先の面を確認し、もう一度葉書をひっくり返せば──もうそこに、二人の姿は無かった。





end



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