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朝靄が立ち込める中、ハルオと並んで歩く。
フード付きのパーカーにマフラーをふわりと巻くものの、やはり早朝は寒くて。悴む手を擦り開いた手のひらに吐息を掛けていると、その片手をハルオが攫う。
「……」
「やっぱり、寒いでしょ」
出掛けに、使っていないコートを貸すよと言われたけど。ハルオの匂いのついた物を纏いたくなくて……断っていた。
「……大丈夫」
ちょっとだけ、意地を張って返す。
手を引っ込めようとすれば、察知したその指に強く握り締められ、ハルオのジャケットコートのポケットに誘導される。
「……」
……嫌だ……
小さく狭いその空間に、濃密に重ねられたハルオと僕の手が仕舞われる。
まるで、今の僕のよう。……逃れたいのに、逃れられない。
ふと、発狂する母の顔がチラつく。
もし拒否をしたら、次はどんな仕打ちを受けるか解らない。……考えただけで、呼吸が震える。
このまま大人しくしていた方がいい。……解ってる。もっと、酷い事になってしまいそうだから。
「……」
チラッとハルオの顔色を盗み見れば、目が合ったハルオが穏やかな表情を浮かべて見せた。
学校へと続く、駅前から伸びた大通り。そこに差しかかる頃には、元気に燥ぎながら登校する学生達が目立つ。柔らかな朝陽を浴び、より一層明るく輝かしい姿が、僕の眼に映る。
……きっと、大きな悩みなんて無いんだろう。
絵に描いたような幸せな家庭で温々と育ち、友情だ恋だと他愛のない話や悩みを溢しながら、仲の良い友達と楽しい毎日を過ごしているんだろうから。
だから、想像もしないよね。
僕が、隣にいる人のアパートで暮らしている事も。この人に束縛されてる事も。
「夕方、迎えに来るから」
校門前で、ハルオに強く抱き締められる。その横をぞろぞろと通り過ぎる学生達。
「……」
……助けて。
心の中で叫ぶ。
誰か、助けて……
だけど。視界に映る人達から向けられるその視線は、冷ややかで。
──こんな所で何やってんだよ。
──通行の邪魔。
──あれが、キスマーク付けた相手?
──へぇ。やっぱ男じゃん……
「……」
やめて……
そんな眼で、見ないで……
この光景は、まるでギロチンに掛けられた──死刑囚。
学生達と視線がぶつかる度、奇異の眼に晒されているような気がした。
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