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1.トラウマ

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×××



色濃い桜の花弁が、僕の首筋に幾重にも舞い散っている。


隠そうにも隠せないし、そもそも隠すつもりもない。
不良グループのリーダーであり、僕の恋人であるハイジが刻んでくれた時から、もうずっと隠していない。


容姿端麗でカリスマ性のある兄──工藤アゲハは、ホストに転身した今でも変わらず人気が高い。
一方。弟の僕は、不良と連むヤリチン野郎との噂が流れ、王子の面汚しだと陰口を叩かれていた。

実際こうして鬱血痕キスマークを隠さないのだから、噂は勝手に悪い方へと転がっていく。中には、僕がパパ活して荒稼ぎしている……なんて噂もあるから、笑ってしまう。

……別に。
誰が何て言おうが、僕には関係ない。
本当の事なんて、当の本人にしか解らないんだから。



ざわめく教室を抜け、廊下に出る。端で固まって駄弁る生徒達。その横を通り過ぎると、手洗い場の傍にある小窓が目に付く。
近付いてそっと開ければ……冷たい風が吹きつけ、僕の頬や首筋の熱を簡単に奪っていく。


──集団レイプ。
その言葉だけで、身体が勝手に震えてしまう。
ヤクザのリュウからの指示で、一時的にハイジがチームから離れると、副リーダー的存在の太一が、仲間と共に僕を襲った。
溜まり場に監禁され、皆の公衆便所にされるかもしれなかった状況からは抜け出せたものの……今も、あの時の片鱗が思い出されると、吐き気を催す。

そんな僕を、太一は繁華街の裏路地に捨てた。
表通りに出れば、煌びやかな夜のネオン街を、仲間のホストを引き連れて練り歩くアゲハの姿があった。その麗しい姿に魅力されながらも……情けなく惨めな姿に成り下がった僕は、ただ妬む事しか出来なかった。


結局、何も変わらない。
僕が汚れようが汚れまいが、アゲハには敵わないんだ。


何一つ──


ぶるっと身体が震え、そっと窓を閉める。
何処に行く宛もなく、人気の無い渡り廊下の方へと足先を向ける。



「……姫!」


その刹那、背後から僕を呼び止める声がした。
ピクンと跳ね上がる肩。竦む両足。何処となくその声が、集団レイブの首謀者──太一に似ていて。

息を止め、警戒しながらゆっくりと振り返る。



ざわざわ、ざわざわ……

廊下を行き交う生徒。
端の方で固まり、駄弁る生徒。
燥ぎながら廊下に飛び出す生徒。

その中に、それらしい人物は見当たらない。


「……」


安堵の溜め息をつくものの、未だに消えないトラウマ。
心臓が暴れ、呼吸は乱れ、冷えたように……指先の震えが止まらない。



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