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第二章 激情の通り雨

家族

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「……麦茶でも飲む?」
「はい……」

テーブル前に座り、冷蔵庫を開ける今井くんのお兄さんをぼんやりと眺める。

出掛ける前まで、今井くんとしてた──この部屋。
その痕跡は無いものの、何だか落ち着かない。

「ごめんね。暑いでしょ」

麦茶をテーブルに置いた後、シャツの襟口を掴んでパタパタとしながら、窓とベランダの戸を開ける。
昼間より、涼しい風。
少しだけ強く吹き込んだそれが、滞っていた室内の空気を掻き回す。


「で、君の名前は?」
「……白石実雨、です」
「みう? へぇ、可愛い名前だな。……じゃあ、みーたんね」
「……」
「俺の事は、魁斗かいとって呼び捨てしていいから」
「……」
「──んー。でも、意外。猛の友達かぁ。
みーたん、そんな感じには見えないからさ。俺のファンが、待ち伏せでもしてんのかと思ったよ」
「……え……」
「はは。冗談!」

その瞳は穏やかで。
優しさに満ちて。
僕を安心させてくれる。

後頭部に手をやる仕草は、今井くんとよく似ているけど。
見た目も雰囲気も……全然違う。

……息が、ちゃんとできる。


「ところでさ、たけしの事だけど。……学校ではどんな感じ?」
「……え」
「扱いにくい所、あるでしょ」

相向かいに座った魁斗が、テーブルに頬杖を付いて僕の顔をじっと見る。
先程とは一変し、真面目な雰囲気。顔付きも、瞳に宿る光も。

「こんな事、みーたんに言うのもあれだけどさ。うち……いま色々大変で。
もう、家ん中ぐちゃぐちゃなのよ。色んな意味で」

──え……

「だから俺が猛を引き取って、今年の春からここに住まわせてんだけどさ。……アイツ、あんまり喋らないんだよね」

苦笑いをした後、汗をかいたコップに手を伸ばす。

「俺が中一の頃だから……猛が小二か。
バツイチ子連れ同士の再婚だったから、突然できた兄弟に、俺も猛も戸惑ってさ。何だろうな。兄弟っていうより、同居人っての? そんな感覚が、俺の中でずっとあってさ。
勿論、親父や母親に対しても同じ。
役割を与えられた赤の他人同士が、同じ屋根の下に住んで、家族を演じてるって感覚だったな。
それに耐えられなくなって。高校卒業して直ぐ就職して、俺だけさっさと家を出たんだよね」
「……」

最後は独り言のように呟き、手にしていたグラスを口に付け、ゴクゴクと喉を鳴らす。



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