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第一章 梅雨の幻影
会いたい
しおりを挟む「何度か繰り返しキスしながら、ブラ越しにおっぱい揉んだら……すげぇカンジてきてさ………」
身を乗り出して聞く男子達に、セックスの内容を抵抗なく話す大空。
その声は、容赦なく僕の耳に入り……
「……」
今すぐここを離れたい。
これ以上、聞きたく、ない……のに……
「おい、大空!」
僕の肩を抱きながら、今井が声を張り上げる。
大空の話に夢中だった男子──五人のうちの三人が、今井の方へと振り返った。
「揉んだって、こうやってか?」
「……っ、」
集まる視線の中。
スクールシャツの上から、今井の武骨で大きな手が僕の平たい胸を包み、上下に揺さぶって揉みしだく。
その大胆な仕草に、男子達が奇声を上げ、異様に場が盛り上がった。
「……」
息が、止まる。
恥ずかしくて……俯く。
その視界の端に映るのは、チラッと視線を向ける、大空──
「……あー。もっと、優しくな」
口の片端を持ち上げ、飄々と答える。その瞳が、僕を軽蔑した色に変わったような気がした。
大空の一言で、その場はもっと盛り上がった。
セックス話はいつしか、取材会見のような質問形式へと切り替わる。
「コンドーム付けたタイミング、教えろよ」
「……キスしながら……だった、な。
つっても、上の口じゃねーぞ」
「じゃねぇって、……何処だよ!」
「何処にしてんだよ、オイ」
「……決まってんだろ、バーカ」
「………」
ついていけない、ノリ。
男子達に笑顔で返す、いつもの大空の普通の反応。
『カムフラージュかもね』
僕は一体、何を期待していたんだろう……
この胸の内は、言葉にならない。
異物が詰まったように、胸が苦しくて……まともに息が出来ない。
どうやってあの場にいたのか。どんな表情でいたのか。どう離れたのか……よく、覚えていない。
考えてみれば、大空が彼女と付き合って……もうすぐ三ヶ月。
そういう事がない方が……不自然、なのかもしれない。
──だけど。
想像なんて、したくない。
……聞きたくなんか、なかった。
*
〈ミキさん〉
昼休み。
三階の渡り廊下を通り、北校舎の薄暗い廊下に出る。
人気のない空き教室に入れば、そこは建設塗料特有の臭いが鼻をつき、息苦しさを感じた。
〈気付いたら、返事ください〉
メッセージのやり取りをするのは、いつも夜の十時以降。
しかも、出会い系サイト内のプライベートエリア。
通知は、されていると思う。
だけど見て貰える可能性は、低い。
それでも……堪えられなかった。
〈……助けて、下さい〉
〈会って、話がしたいです〉
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