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第一章 梅雨の幻影

城崎大空2

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『実雨、俺と組もうぜ……!』

──それは、体育の時間での事。
ペアを組んで準備運動をする筈が、その相手が中々見つからなくて。一人ぽつんとつっ立っていれば、大きく手を振る大空が僕にそう声を掛けてくれた。

それだけでも、充分嬉しいのに。
初めて大空の両手に、触れられて……

凄く、ドキドキした。
重なった手のひらと手のひら。そこに湿気と熱が籠もり、熱くて熱くて……
正面にいる大空の顔を全然見られなくて……この胸を突き破ってしまいそうな程、心臓が激しく暴れ回っていた。

『ちっせぇ手だな』

そう呟いた大空は、僕の手を恋人繋ぎに直し、突然グンッと引っ張って……

『……わっ!』

バランスを崩し、足が縺れ……そのまま大空の胸に飛び込む形になってしまった。
肌に伝わる体温。感じる息づかい。
瞬間、カァッと全身が熱くなり……体が硬直する。

『お前、マジでちっちゃくて……可愛いな』
『……っ、!』

大空が僕の背中に手を回し、ギュッとしてくる。
でも、その抱き締め方は、身体の小ささを確認するものでしかなくて……



「……」

大空は時々、こういう思わせぶりな態度をしてくる。
『可愛い』って言葉も、普段からよく使ってくる。……多分、口癖なんだと思う。

解ってる。
大空が男の僕に、その気がない事くらい。

だけど、そんな事されてしまったら……もしかしてって期待してしまう自分がいて、情けない。

……だって大空には、彼女がいるんだから。


《それは、期待しちゃうね》
〈……はい〉
《でも、期待してもいいんじゃないかな?》

ミキさんの言葉に、心臓が大きく跳ねる。

《僕も高校生の頃、好きな男の子にちょっかいを出して、気持ちを探った事が何度かあるよ。
その後、女の子から告白されて。カムフラージュで付き合ったんだけどね》

……カムフラージュ。
もしそうだとしたら、どんなに良いだろう。
そう思ってしまうのは、僕の中でまだ消化しきれていない出来事があったから。


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