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2章 村での生活

39話 焦ると早口になるのは仕方ない……

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 女将さんは焼きサツマノイモに満足して機嫌も良くなったみたいなので、俺としては一安心だ。

 ラベンダーも焼きサツマノイモの作り方は覚えられたはずだ。

 ……まあ、今度サツマノイモを使った他の料理の作り方も教えなきゃだけど。


「いやぁ、美味しかったよ! これだけ美味しいなら、宿の食事で出してもいいくらいだね!」
「本当!? やったぁ!」

「ラベンダー、まだ教わったばかりなんだから焦るんじゃないよ? 宿で出したいなら、同じ味が必ず出せるようにしなきゃならないからね?」
「うん! がんばる!」


 ラベンダーは元々頑張りすぎだから、これ以上頑張ったら危ないのでは……?

 俺は忠告だけしておこうと思ったのだが──


「そうだ! お母さん、先生がね! ミドリサツマノイモもおすそわけしてくれたんだよ!」
「なっ、なんだって!? まさかラベンダー、あれを食べたんじゃ……!?」


 ミドリサツマノイモの名前が出た瞬間、俺を睨み付ける女将さん……

 あ、もしかして……食べたらどうなるかを詳しく知ってる……?


「うん! とっても美味しかったよ!」


 うぉ……女将さんから無言の圧力が……!


「ちょっとあんた! ミドリサツマノイモが、どんなものか……知っててラベンダーに食べさせたのかい……?」
「ちゃんと対処はしてありますから、食べても大丈夫なんです! ちゃんと調べましたから!!」


 女将さんからの威圧に耐えきれず、食い気味に大丈夫だと返したが……

 ものすごく、疑ってる目で見てくる……


「ミドリサツマノイモの幸福を強く感じる成分は、適切な温度で焼くことで気化して外に放出されるんです。お渡しした焼きミドリサツマノイモはもう成分が放出済みだから、身体に異常は出ません!!」

「……所々、何を言ってるのかあたしには分からないが……詳しいのは本当みたいだね?」

「こんな時に嘘をついても仕方ないですからね……」


 焦りからかなり早口になってしまったけれど、頑張って説明した甲斐もあってどうやら信じてくれた? みたいだ。


「もう! お母さん! 美味しかったって言ったのに、先生を疑っちゃだめだよ!」

「でもねラベンダー、あたしは昔ミドリサツマノイモを食べて大変なことになった人を見たことがあるんだ。だから、心配するのは勘弁しておくれよ……?」

「うーん……それなら仕方ないのかな……先生、ごめんね?」

「俺は気にしてないから大丈夫だよ」


 ミドリサツマノイモの特殊性を詳しく知ってるなら、疑い深くなるのも仕方ないと思うしな。

 ただ、もしミドリサツマノイモの影響を受けたラベンダーを見たことがばれたら……

 ……余計なことを考えるのはやめよう。俺は顔に出やすいみたいだし。

 いや待てよ……焼いたことで例の成分が減ったとは言え、これから女将さんがミドリサツマノイモを食べるのを見るのは……なんか危険な気がしてきたぞ!?

 鳥肌まで立ってきたし……!


「あの! サラさんの所にもお裾分けに行きたいので、俺はそろそろ行きますね!!」

「やけに早口だけど、なんかやましいことでもあるのかい?」
「いえ全く!」


 やましいことじゃなくて怖いことならありますが!


「……まあいいかね、あたしも落ち着いて食べたいところだし。今日は顔色悪くするまで無理するんじゃないよ!」

「はい、気を付けます! では行ってきますね」

「行ってらっしゃい」
「先生、行ってらっしゃい!」


 二人に見送られて宿を出た俺は、焼きサツマノイモをお裾分けするためにサラの家に向かうことにした。

 ……錬金術の事は後回しにして。

 どう考えても、言い出せる雰囲気じゃないしな。
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