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2章 村での生活

28話 不遇なサツマノイモ

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 どう答えようか悩んでいると、服を引っ張られたのでそちらに目を向けると、ラベンダーが俺の服を掴んでいた。

 表情を見るに、とても辛いのを堪えているように見える。


「あの……! 先生は無理しなくて、大丈夫! 私、ちゃんと自分で頑張るから……!」


 そんな無理矢理作った笑顔で言われて、誰が放っておけるかよ。

 恐らく、今まで何度も言われて努力をしてきたんだろうな。

 しかしいつまで経っても直らないことが、ラベンダーにとって大きなプレッシャーになってるのかも知れないな。


「ラベンダー、落ち着け。俺は断るつもりなんか全く無いぞ」

「……でも──」

「あのな、ラベンダーや俺のこの症状は病気じゃないんだ。だから、どう説明するかを悩んでいただけなんだよ」


 実際、薬でどうにかなるものじゃないしな。
 現実だったとしても、せいぜい自分が敏感な体質なんだと自覚して、うまく付き合っていくのを促す位ではないだろうか。


「じゃあ、引き受けてもらえるんだね?」

「それはもちろんです。ただ、治すというよりは矯正する感じだから、時間がかかるのは承知しておいてもらいたいです」

「あたしには分からない事だからね。リョウにお任せするよ!」


 俺が引き受けることを了承すると、ラベンダーはポロポロと涙を流した。


「先生……ありがとう……!」

「よしよし、泣くなよ。すぐに変化がある訳じゃないんだから、気長にやっていこうな?」


 そう言いながら頭を撫でると、泣き笑いを浮かべるラベンダー。

 だが唐突に鳥肌が立ったことで俺が顔を上げると、そこには恐ろしいオーラを放つ女将さんの笑顔が──


「あんた……分かってると思うけど、ラベンダーに手を出したりしたら──」
「なんにもしませんから! いい加減信用してくださいよ!」


 依頼してきた時点で信用してくれたのかと思っていたが……これは別の問題と言うことなのだろうか……?



 少しして女将さんの恐ろしいオーラが引っ込み、ラベンダーも泣き止んで落ち着いたので、今日の目的を話すことにした。

 ……やっと要件を切り出せるな……


「お二人とも落ち着いたようなので、こちらの用件をお話してもいいですか?」

「ありゃ……なんかあたしらに用があったのかい?」


 流石の女将さんも、若干申し訳なさそうな顔をしてるな。


「そんなに大したことじゃないんですが、先日森で手に入れた食材を調理するのに、キッチンを貸してもらいたいんです」

「なんだそんなことかい! それなら好きに使ってくれて構わないよ!」


 女将さんは快くOKを出してくれた。

 これで断られたら、どうしようかと思ったよ……


「ありがとうございます!」

「なに、こっちこそラベンダーの事をお願いするんだ。お礼なんかいいんだよ!」


 うんうん、やはり女将さんはこうでないとな!


「そうだ、できたらラベンダーにも作るところを見させてやってくれないかい?」

「全然いいですよ。 こちらとしても、お借りしたキッチンで一人で料理するよりも、家の人が居てくれた方がやりやすいですから」


 借りたキッチンでどこに何があるかなんか分からないし、普段料理を作る人が同席してくれるのはとてもありがたい!


「じゃあよろしく頼むよ! ラベンダー、行っておいで」

「うん! お母さん、おやつ取っておいてね!」


 まだ、おやつ食べ終わってなかったんだな……



 キッチンに入ると、俺は早速サツマノイモを取り出した。


「サツマノイモで何か作るんですか?」

「うん。こっちだと、サツマノイモってどんな料理に使ってる?」

「うーん……スープとかの具に使うくらいかなぁ……」


 ふむ……あまり頻繁に使われてる食材ではないようだな。

 おやつとしても使いやすいものなんだけどなぁ。


「なるほどね。今日は、サツマノイモを使った簡単なおやつを作ろうかと──」
「おやつが作れるんですか!?」


 おお!? なんか凄い食いついてきたな!?


「お、おう……凄く簡単だし、ほんのり甘いから──」
「甘いんですか!?」

「甘いと言っても、ほんのりだからな?」


 甘味に相当飢えてるのだろうか……
 でも見た目からしてさつまいもと同じだろうし、どんな調理の仕方をしても甘さは出るはずだが……?

 もしかして、一切貯蔵されずにすぐ使われてしまうのかも知れないな。


「ちなみに今回作るのは焼き芋だよ」

「……焼き芋、ですか……」


 そう言った瞬間、ラベンダーのテンションがガクッと下がった感じがした。

 その明らかに期待外れみたいな顔を見るに、二段階くらいはテンションが下がったんだろうな……


「もしかして、焼いたサツマノイモを食べたことあるのかな?」

「いえ、ありませんが……焼いただけで甘くなるとは思えなくて……」


 うーん……確かに良く考えたら、新芋なら焼くより干した方が甘いかもだな──


《リョウさん、悩んでるみたいですけど……どうかしたんですか?》


 悩んでいたらブレンから心配されてしまった。
 悩んでいた訳を説明すると──


《リョウさん、この世界には現実の世界と似たものが多く存在しますが……全てが同じという訳ではないのですよ?》

(え?)

《とにかく、まずは試しに作ってみたらいいんですよ!》


 確かに、ここは現実ではないし……ブレンの言うようにやるだけやってみるかな!
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