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1章 冒険の始まり

36話 見覚えがある名前の装備品

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 旅人の祭壇へ向かっていると、足元にヨモギ草が生えているのを見つけた。
 そういえば、タンジーに止血したのも、近くに生えていたヨモギ草だったよな。


「ブレン、もしかしてこの近くなんじゃないかな?」

 俺は周囲を見回しながらブレンに声をかけた。


《そうですね、確かに風景は似ているようです。きっとこの辺りに──》

 ブレンはそう言って茂みの向こうへ飛んでいった。


《あ、ありましたよ! リョウさん、こっちです!》

 ブレンが茂みの向こうでホバリングしている。
 あの下に最後の素材があるんだな!
 俺がブレンの所まで茂みをかき分けて進むと、明らかに素材ではなさそうなものもあった。


「ブレン、見つけてくれてありがと! しかし、この首飾りは?」

《フォレストウルフのレアドロップの装飾品です! 滅多に出ないので、かなり運がいいですよ!》

 へえ、レアドロップだと装備品が出ることがあるんだな!
 まあ、素材から職人が作ったものよりは性能は低いかもだが。

 最初に倒した狼素材は、牙一つ、爪一つ、毛皮一つ、そして首飾り一つだ。
 気になっていた首飾りの詳細を見てみると。


『森の民の首飾り』

〖森に住んでいた民が愛用していたとされる首飾り。村の守護樹の恩恵があると言われており、すべての状態異常にかかりにくくなる〗


 !? この名前……俺がリメイク前のNWOで、作成した装備に好んで使っていた、森の民シリーズと同じ名前だ……
 偶然……だよな?


「なあブレン、この首飾りの名前にある森の民って今は存在してるのかな?」

《森の……民、ですか? サイプレス村以外では、この地域に森の中の村はないはずです》

 やはりないのか……とすると、この名前は俺が──


《!! リョウさん、なにか近付いてきます!》

「!? モンスターか、タイミングの悪いやつだな……!」

 俺はひとまず『森の民の首飾り』を装備して、槍を構えた。
 呼吸を落ちつかせて様子を探ると、フゴフゴと声(?)が聞こえて、僅かにのしのしと歩いてくる音と気配がある。


(猪か? 昔と同じなら、レベル二十二のフォレストボアだろうか?)

 俺が樹に隠れるようにして様子を探っていると、低木の茂みから猪が顔を出した。
 その猪は、フゴフゴと鼻を鳴らしながら、徐々にこちらに近付いてくる。
 匂いで気付かれているのか!?


≪ブレン、先手で仕掛けるから、周りに他のモンスターがいたら教えてくれ!≫
《了解です! お気をつけて!》

 猪の体が槍の攻撃範囲に入った瞬間──
 俺は思い切り踏み込みながら、胴目掛けて全体重を掛けて槍をつき出す。


「はあぁっ!!」

「フゴッ!?」

 槍は、格上の敵である猪をあっさりと貫通した。
 しかし、当たり所が悪かったのか生きていた猪はめちゃくちゃに暴れだした。
 ぎりぎりで槍から手を離して離れることが出来たが……


「ブギッ! ブギイィ!!」
「うわっ!? これじゃ槍も抜けない!」

 このままじゃ、せっかくの新しい槍が傷ついてしまう!
 焦った俺は、ダメージを覚悟して槍を取ろうと──

 ゴツッ!!
 暴れていた猪は、太い樹に鼻から突っ込んで沈黙した……
 そしてゆっくりと横に倒れると、その場で消滅した。


〖基礎レベルが上がりました〗
〖基礎レベルが上がりました〗

 お、どうやらレベルも上がったみたいだ。
 しかも二つ! 流石格上の相手だな。

 モンスターが消えたあとには、俺の槍と猪の大きな肉の塊、猪の牙が残っていた。


「ふう、槍と運に助けられたな。次から気を付けないと」

 槍の貫通力は予想外だったが、俺の戦い方が悪すぎだったな。
 一撃で倒せる相手ならともかく、格上の相手に全力で突き刺すのは駄目だな。
 ……予備の槍でもあれば可能かもしれないけど。


《リョウさん、お疲れ様でした。わあ! 大きい猪肉ですね! これだけあれば皆さん満足できるのでは?》

「あ、うん。確かに、これだけあればみんなで食べれそうだ」

 いかんいかん。素材集めるのがメインになってて、昼御飯のこと忘れてた!
 今の時間は……十一時半。急いで帰らないと!


「ブレン、ちょっと遅くなっちゃったから、村までの道案内頼めるかな?」

 すると、ブレンは半眼でこちらを見ている。
 小鳥の半眼とか、可愛いだけなんだが……なでてもいいかな?


《リョウさん、もしかして目的忘れてましたか?》
「う"……はい」

 ブレンは大きく頭を振ってため息を(ピュウゥゥという声がかわいい!)つくと、俺の肩にガッ! と音を立てて思いっきり突ついてきた。


「痛った!!」
《帰ったらお説教です。分かりましたか?》

「はい……」
《素直でよろしいです。では、村まで急ぎましょう!》

 そうして俺達は村に──


《!! 左から突進来ます! 避けてください!》
「えっ避ける? って、うわっ!? なんだ!?」

 慌ててバックステップすると、茶色い塊が俺の目の前を通過していった。
 まさか……また猪か!?


《フォレストボアです! どうやら先程倒した雌の猪の番のようです》
「敵討ちってわけか!? それは申し訳ないんだが、こちらもただやられるわけにはいかないな」

 Uターンして戻ってきた猪は、再度勢いをつけて突進してくる。
 一般的な猪より早いように感じるが、これくらいならまだ見える!
 猪の突進が当たる直前で、半身になって回避し、すれ違いざまに槍で切りつける。
 弾かれることもなく、しっかりと傷をつけることが出来たが──


「ブギイィィ!!」

 猪は雄叫び(?)をあげると、そのままどこかへ走っていく。
 逃げるつもりか!?


「あっ、待て!!」

 慌てて追いかけるが、猪は手負いとは思えないほどの早さで木々の間を抜けていく。
 駄目だ、見失ってしまった……


「浅かったか。せめて足を狙うべきだったかな……」

《怪我もなく、撃退できたんだから欲張っては駄目ですよ?》

「まあ一匹分のお肉はあるわけだし、いいかな」

 急がないと、タンジー達がお腹をすかせているかもしれない。
 俺は周囲を警戒しながら、村まで小走りで戻っていった。 
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