上 下
25 / 143
1章 冒険の始まり

23.5話 暴れたプレイヤーの末路①※

しおりを挟む
「ぐ……あのおっさん、何をしやがった……」

 男は、瀕死になりながらもまだHPが残っていた。
 起き上がった男が周囲を見回すと誰もおらず、倒れているのもリョウだけだった。

 リョウを見た男は再び怒りを再燃させて、止めを刺すべく近寄っていく。


「このおっさんだけでも、仕留めないと、腹の虫が治まらねぇ……!」

 男は予備の斧をストレージから出すと、倒れているリョウに向かって振り下ろす──
 ──ガキン!
 しかし、何者かが斧を受け止めた。


「そこまでだ! 犯罪を犯した冒険者!!」
「ああ!? なんだてめぇは!? ったく、どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがって──」

 男が再度斧を振りかざした時、視界がぐるっと回り、地面に叩きつけられていた。


「ぐはっ……何しやがる、この欠陥データが!!」

 男を叩きつけたのは、この村の門番の一人だった。


「なるほど、今の冒険者にしてはかなり強いようだな。だが私には遠く及ばない」

 男がどんなに力を入れて暴れても、門番はびくともしない。


「こんな、こんなのはおかしい! さてはてめぇら、チートだな!?」

「訳の分からないことを。お前はこれから町に連行して、裁きを受けることになる。自分のやったことをしっかりと悔い改めるのだな」
「ふざけんな! 俺は、金を払ってここにいるんだぞ! 訴えてやるからな!!」

「愚かな……お前は今から私が直々に連れていってやる。町に着くまでに、お前が何をしたのかきっちりと教えてやろう」
「うるせぇ! この欠陥──」

 ──ドスッ
 腹部に一撃を受け、男は白目をむいて倒れこんだ。


「……少し、黙っていて貰おうか。さて、貴殿方冒険者の方々には、情報提供感謝致しますぞ」

 門番の男性は騒いでいた男を殴って黙らせ、男の足に何かを付けると、近くにいた冒険者達に頭を下げた。


「いえ、こちらが止めることが出来ず、申し訳ありませんでした……」

「元とは言え、仲間がご迷惑をお掛けしました……」

「あー、こちらこそ……あいつを抑えてくれて、あざます」

 そこにいた三人の冒険者は、男──と町でパーティーを組んだプレイヤー達だった。
 村や町でのNPCに対する態度や暴言に辟易していた所に、この騒ぎだ。
 見限るのも当然だった。


「貴殿方は門から離れられない私の変わりに、非番の門番を呼んできてくださりました。お礼を申し上げるのは当然のこと」

「いや、他に自分に出来ることが見つかりませんでしたので……」

 あの男が暴れだした時、パーティーメンバーは自分達の力量では抑えられないと察して門番を呼びに行った。
 この世界の門番は、例外なく非常に強いのを知っていたからだ。

 その際に、門番がその場所から離れることが出来ないと告げると、一人が非番の門番を呼びに行った。
 他の二人は、村人が巻き添えにならないように避難させていた。
 門番の男性はその行動を見ていたため、暴れた男の仲間ではあるが、信用できると判断した。

 本来、問題を起こした人物と一緒にいた仲間も連帯責任として、様々な取り調べがある。
 しかし、今回は問題の解決に手を貸したこともあり、非番だった門番が任意で話を聞くだけに止まった。

 三人とも厳しい取り調べを覚悟していたので、逆に感謝されて戸惑っていた。


「あの、本当にさっきの取り調べだけで良かったのですか?」

 聞いたのは全身を黒で統一した装備の男性だった。
 彼は、あれだけの問題を起こした男と一緒にいた上に、止めることも出来なかったことを悔いていたのだ。


「他の門番の取り調べに協力してくれて、感謝しておりますぞ」

 門番の男性──マスタードはそう言うと、笑顔を浮かべた。


「この度の騒動、貴殿方の協力がなければもっと被害者が出ていたことでしょう。貴方が悔いることはありませんぞ?」

「ですがっ……俺は──」
「それ以上、自らを責めてはなりませぬぞ?」

 マスタードは黒ずくめの男性の肩に優しく手を置いた。


「仲間が問題を起こし、止めれなかった。これは私でも悔やむことでしょう」

 ですが、とマスタードは続ける。

「貴方は自分が出来ることを行い、被害を食い止めた。それは決して間違いなどではありませんぞ?」

「……はい……」

「自らで解決出来ない問題に、他者の力を借りることを恥じることはありませぬ」

「そう……でしょうか……?」

 マスタードは深く頷いた。


「勿論、他者の力ばかりをあてにされては困りますが、非常時に最善の方法を模索するのは大事ですぞ?」

「……分かりました。肝に銘じておきます」

 黒ずくめの男性はしっかりと頷いた。
 彼なら、間違いを起こすことはきっとあるまい。
 そう、マスタードは思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです

もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。 ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。 ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

処理中です...