上 下
19 / 143
1章 冒険の始まり

18話 たくましいタンジー

しおりを挟む
 これは……かなりの額だな。もしかして……


「サラさん……これ、セージ君の治療費にするために貯めていたお金だったんじゃありませんか?」

「そうですよ。リョウさんのお陰でセージだけじゃなくてタンジーまで無事だった……だからこのマネを──」
「受け取れません。子供のために貯めていたお金なら、子供に使ってください。」

「でも……お礼を──」
「お礼なら、生活が安定してからでも全然遅くないですよ? だから、ちゃんとしたものを子供達に食べさせてあげて欲しいです」
「……」


 俺にとってはサラさん達が、健康に過ごしてくれたらそれだけでいいんだけどね……
 しかしサラさんはなにかぶつぶつ言っている……やはり納得できてないよな……


「あ、お母さんとお兄さん! こんにちは!」

 そこにタンジーが走ってきた。

「タンジーちゃん、こんにちは!」

 もうすっかり元気だな。やはり、子供は元気が一番だな!


「タンジー、どうかしたの? ……まさかセージになにか……」
「んーん、ちがうよ! セージなら、ぐっすりねちゃってへんじないから、お母さんをさがしにきたの! 気付いたらいないんだもん!」

 サラさんは、しまったという顔をしている……伝言をしてなかったのか?


「ごめんね、一声かけるの忘れちゃってた」
「もー、お母さんいつもぼーっとしてるんだから、気を付けてよね!」

 いつもなんだな……タンジーの方がお母さんっぽい。


「お母さん、セージがおきたらごはんあげるんでしょ? ここにいていいの?」

「でも……まだリョウさんにお礼が──」
「もう! お兄さんとお話したいだけでしょ!」

 おお! タンジー! 頑張れ!


「お兄さんには、わたしが村のあんないしてくるから、お母さんはセージをおねがいね!」
「えぇ……ずるい……」

 ……サラさんがねてる……本当にタンジーの方が上手だな。
 って、いつから村の案内されることになったんだ!?


「さいしょにだまってお兄さんのところに行ったのはお母さんなんだから、次はわたし、だよね?」

「……はぁい。 ……リョウさん、お礼の件はまた後程……タンジーをよろしくお願いしますね」

 そう言ってサラさんは、とぼとぼと帰っていった。
 さっき一瞬だが、タンジーから威圧が……?
 こんなに小さいのに、凄いな……
 そんなことを考えていると、タンジーはくるっとこちらを向いて、


「お兄さん、うちのお母さんがごめいわくおかけしました……お母さんは、やさしい人にすごくほれっぽいんです……」

 え……惚れっぽいって、大丈夫なのか?
 悪いやつに騙されたりしそうだが……


「お父さんが、まものにやられちゃってから、おとこの人がお母さんのおしごとの手伝いにきたりして、やさしくされるとすぐああなって……」

 ……サラさんは、男性に依存するタイプだったんだな……
 というか、タンジー……子供なのに苦労してるな……


「でも、おとこの人たちはお母さんねらいの人ばかりで、ほんとうにやさしい人なんかいなかった。だから、わたしがお母さんを守ってきたんだよ」

「タンジーちゃんは、優しいんだな」

「ううん、お父さんいなくなって、お母さんがいつも泣いてたの……そのとき思ったんだ。わたしがお母さんもセージも守るんだって」

 思わず、タンジーの頭を撫でていた。こんなに小さいのに、沢山のものを背負ってるんだな……


「やっぱりタンジーちゃんは優しいよ。でも、そんなに頑張りすぎたらタンジーちゃんが疲れちゃうだろ? たまには、宿屋の女将さんとかに頼るのもいいんじゃないかな?」

「……うん、かんがえとく。……お兄さんは、ほんとうにやさしいよね」

「本当にって……」

「だって、わたしのことをしんぱいしてくれるおとこの人は今までいなかったよ?」

 ……何て事だ……身近には、最低なやつしかいなかったのか……?


「お兄さんが、お父さんになってくれたらあんしんなんだけど……」

 思わず、頭を撫でる手が止まってしまった……


「だいじょうぶ、おしつけたりしないよ。お兄さんにも、えらぶけんりがあるからね!」

……どこで覚えてくるんだ、そんな言葉……
 どうやら苦笑していたらしく、俺の顔を見上げていたタンジーは、


「そのかお……どこでおぼえてきたんだ? っておもってるでしょ!」

「正解。よく分かったね?」

「お母さんにやさしくしてた人たちのかおをかんさつしてたら、なんとなく分かるようになったんだ……」

 無言でまた頭を撫でる。この様子だと、さっきの威圧も覚えるべくして覚えたんだろうな……
 不憫だ……



「あ、ごめんなさい……はなしこんじゃった……」

「大丈夫だよ。タンジーちゃんの頑張っていた話が聞けて良かった」

「きいてくれてありがとう! お兄さんはなしやすいから、いっぱいはなしちゃった!」

 はしゃいでいるタンジーを見た俺は、父親ってこんな心境なのかな……などと思っていた。
 やっぱり、子供は楽しそうにしてないとな!



「じゃあ、村をあんないしようとおもうんだけど、きぼうはある?」

「うーん……タンジーちゃんのお任せコースでどうかな?」

 すると、タンジーは満面の笑みを浮かべて、

「まかせて!」

 と気合いの入った返事をしてくれた。




「まずはここ!」

 タンジーに連れてこられたのは、薬瓶のマークの店だった。

「ぼうけんしゃの人ならいちどはおせわになる、くすりやさんだよ!」

「おお! やっぱり薬屋か。ポーションの素材とかもあるのかな?」

「んー、そこまではわからないけど……おばあちゃんにきいたらきっとわかるよ!」

 そんな話をしていたら、背筋がまっすぐなおばあさんが薬屋から出てきた。


「あ、おばあちゃん。こんにちは!」

「やあタンジーちゃん。こんにちは。……このおじさんは誰だい?」

 明らかに不審者を見る目で俺を見るおばあさん。

 すると、身体中を探られてるような感覚があり、思わず後ろに飛び退く。

 今のはなんだ!?


「……へぇ、感覚は鋭い方だね。冒険者かの?」

「……はい、昨日から宿屋でお世話になっている、リョウって言います」


 そう言いながらも、鋭い目付きを向けてくるおばあさん。

 ……もしかして……俺を鑑定してないか?

 そう思って、おばあさんの目を強く見返すと、探られてるような感覚が消えた。


「……あんた、なかなかやるね。とてもレベルが十一とは思えないよ」

「……やっぱり鑑定してましたか。この世界には、個人情報保護法とか……ないだろな……」

 ため息をつきながらも、おばあさんからは目を離さない。そんな時──


「おばあちゃん! しょたいめんの人をいきなりかんていするのはよくないよ! お兄さんにあやまって!」

 タンジーが怒り出した。


「タ、タンジーちゃん……でも──」
「でもじゃないの! お兄さんは、いのちのおんじんさんなんだよ! 森でおおかみからたすけてくれたんだから!」

 驚いたのか、驚愕の表情を浮かべるおばあさん。


「……あんた、それは本当かい? そんな低いレベルでザワメキの森林の──」
「……、お ば あ ち ゃ ん ……」
「ヒィッ!!」

 ゾクッとするほどの殺気がタンジーから発せられた。
 ……え、威圧にしても強すぎないか!? おばあさん、がたがた震えてるぞ……


「おばあちゃん? 人のはなしをきかないで、わるぐちを言うのは、わるい人なんだよ……?」
「ごっごめんよ、タンジーちゃん!! ワシが悪かったから、威圧を解いておくれ!」

 うおお……タンジー……怒るとすごい怖いな……
 これなら狼くらい楽勝だったんでは……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

ほんわりゲームしてます Ⅱ

仲村 嘉高
ファンタジー
※本作は、長編の為に分割された続編側になります。(許可済)  1話から読みたい方は、アプリなら作者名から登録作品へ、Webの場合は画面下へスクロールするとある……はず? ─────────────── 友人達に誘われて最先端のVRMMOの世界へ! 「好きな事して良いよ」 友人からの説明はそれだけ。 じゃあ、お言葉に甘えて好きな事して過ごしますか! そんなお話。 倒さなきゃいけない魔王もいないし、勿論デスゲームでもない。 恋愛シミュレーションでもないからフラグも立たない。 のんびりまったりと、ゲームしているだけのお話です。 R15は保険です。 下ネタがたまに入ります。 BLではありません。 ※作者が「こんなのやりたいな〜」位の軽い気持ちで書いてます。 着地点(最終回)とか、全然決めてません。 ☆応援・評価、ありがとうございます! ◎週1回更新出来たら良いなぁという、緩さです。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

処理中です...