上 下
16 / 143
1章 冒険の始まり

15話 ナビさんの新しい名前

しおりを挟む
 俺がナビさんに怒られる事が確定していた時、サラとタンジーはセージ君の様子を見て、笑顔で涙を流していた。

「……セージの、こんなに落ち着いた顔を見たのは、何ヶ月ぶりかしら……」
「セージ、くるしくなさそう……! お母さん、もうセージはいたくないんだよね!?」
「きっと、もう大丈夫よ……」

 二人とも、抱き合って静かに泣いている。
 本当に、間に合って良かった……

 俺が安心して一息ついていると、サラさんとタンジーがこちらを向いていた。


「リョウさん、タンジーだけでなく、セージまで助けていただいて……なんとお礼を言っていいのか……」
「やっぱりお兄さんはすごいね! セージがすごくつよそうになったよ!」

 ううむ……お礼言われるのは、あまり慣れてないんだよな……クレームならたくさん対処してきてるんだが……


「えっと……出来ることをしただけですから、本当に気にしないで下さい」


 きっと引きつった顔をしてるんだろうなと、自覚しながら返事を返したが──


「いいえ、ここまでして貰ってなんにもお礼をしないなんてありえません!」


 サラさん、なんでにこやかに喋りながら距離を狭めて来るんですかね!?


「さあリョウさん! してほしいことがあればなんでも──」
「とりあえず! お礼の件は後日ということで! まだやることがあるんで、これで失礼します!」


 そう言い残して早足にサラさん宅をあとにする。なんか呼ばれてるような気がするが……

 笑顔で迫ってくるってのが怖すぎる!


《……リョウさんって、ヘタレだったんですね……》
 ……それはほっといて!



 無事(?)宿に帰ってきた俺は、女将さんに
飛び出していった経緯を聞かれた。

 状況を説明すると、「よくやったよ!」と背中を叩かれてむせこんだ……
 女将さん、絶対鍛えてるだろ……強すぎるぞ……


 部屋に戻ると、そのままベッドに倒れこんだ。なんか、どっと疲れたな……


《リョウさん、もしかして女性が苦手だったりします?》

「苦手と言うか、仕事のクレームとかは女性が主でさ……責められることばかりだったから、お礼言われても対処に困るんだよな……」

 って、ナビさんに愚痴っても仕方ないよな。
 まあ、幼い頃のトラウマのせいでもあるけど……

 そうだ、ナビさんに聞きたいことがあったんだ。

 俺はがばっと起き上がると、テーブルに止まっていたナビさんに声をかけた。


「そう言えば、ナビさんに聞きたいことがあったんだけど、今は平気かな?」

《そうでしたね。私は今後リョウさん専属になりましたから、いつでも大丈夫ですよ》

 ……聞きたいこと、増えたな。専属ってなんだ……



「じゃあ早速……一番気になっていたのは、ナビさんが消えるって話かな。今こうしてるんだから、消えることはなくなったんだよね?」

《その通りです。異常については解明されておりませんが、一緒にいて状況をすぐ報告できる者がいた方がいいと言うことになり、私がそのまま担当になれたんです! ……まあ、監視扱いですけれど……》

「監視でもなんでもいいよ。ナビさんが消えるより、嬉しいから」

《……私も……嬉しいです……》

「ごめん、今聞こえなかったんだけど、何て言ったの?」

《聞こえなかったならいいんです! 他の質問はなんですか?》


 これは、何度聞いても教えてくれないパターンかな?

 食い下がったらまた怒りそうだし……


「ここまで来てくれた理由はわかったし専属(監視)と言うのも理解できたけど、なんで小鳥の姿で来たの? 声だけでも大丈夫だったと思うけど?」

《……触れてみたかった……》
「え?」
《なんでもないです。声だけだと案内もしにくいですから。小鳥なのは小回りが効くし、空から偵察も出来ますからね》

「ああ、確かに右とか言われるだけよりは、実際に方向を示して貰った方が間違いがなさそう」
《……小動物なら……撫でてくれるかも……と言うのもありますが……》

「……ナビさん、さっきからボソボソ言うのはなんなのかな……」


 苦笑しながら聞いてみたが──


《っ! 独り言です!》


 やはり答えてはくれなかったな……


《そうだ……リョウさん! 名前をつけてください! 今まではあだ名みたいなものだったけど、ちゃんとした名前が欲しいです!》


 ちゃんとした名前……ずいぶん難題が来たなぁ……


「俺にとっては相談役だから……ブレーンや、ブレインから取って、ブレンってどうかな?」

《ブレン……それが私の名前……》

「気に入らなかったら──」
《嬉しいです! 今から私はブレンです! リョウさん、これからもよろしくお願いしますね!》


 肩に飛んできたブレンに、頬をそっとつつかれた。

 ……あれ? もしかして今の……キスか!?


《あれ……リョウさん……? ……えっ! 固まっちゃってる!?》




《さっきはすみませんでした……つい嬉しくて……》

「ああ、いや……俺の方こそごめん。びっくりしちゃってさ」

《小鳥だから、意識されないかと思ってました……》

「……うん、俺もそう思っていたけど……ダメだったみたいだな」


 自分の免疫の無さに情けなくなってくる……



「あ、そう言えば……セージ君の薬を作った時に、俺はなんで倒れたのかな?」

《それはこちらも知りたかったですね。まずはステータスを出してみて貰えますか?》

「分かった」


 俺は頷いて、早速メニューからステータスを表示すると──


 『リョウ LV11』

〖HP 56/56   MP40/40 空腹状態

 STR 1 INT 1 VIT 1 AGI 1 DEX 1 LUK 1 

 ボーナスポイント 30


 スキル

 槍術  LV2
 投擲  LV1
 薬草学 LV2
 調合  LV2
 錬金術 LV2
 ??? LV2
                  〗



 あれ、戦ってないのにレベルが上がってるな。
 ブレンも肩から覗き込んでいて、


《レベルが上がったスキルは、薬草学、錬金術、???ですか……》


 と呟いた。


「何かわかった?」

《そうですね……推測になりますが、倒れたのもレベルが上がったのも、セージさんの薬作成でしょう》


 あの強すぎる強壮剤か……


《スキルの経験値が加算されるときは、キャラクターの経験値にもごく僅かに加算されます》


 それでキャラクターレベルも上がったのか……
 というか、またボーナスポイント割り振ってなかったな……


《倒れていたことや、様々なレベルが上がるほどの経験値が加算されたことから、恐らくはMPを一気に使い果たしたことで倒れたのではないかと……》

 確かに、MP全部使ってもいいと思って作ったけど……


「ゲーム内で気絶してしまうって……危なすぎるだろ……」

《そう、危険ですね。ですが他のプレイヤーの方々は、恐らくならないでしょう》


 どういうことだ……俺だけが危険だと言うことか? ……まさか……


《リョウさんも予想がついてますよね?『???』の可能性が非常に高いです》


 やはり『???』か……


《消費するMPは、現時点で最大十ですから、全MPを使い果たすなどあり得ないんですよ。強力な効果がある反面、消費MPが大きすぎるスキル……だからこそ、本来は未公開で使えないはずだったんです》

 ……なんて恐ろしい……しかし、今別の問題が凄まじく集中力を削ってくる……

 集中して考えてくれてるところ、非常に申し訳ないのだが、腹が、へって……


「なびさ──ブレン、あの……」


 恐る恐る肩にいるブレンの方を向くと、今まさに、力一杯つつこうとしている小鳥が──

 ガッ!!

「ぎゃあぁぁ!!」

《さっさと何か食べてきてください!!》


 肩に強烈な一撃をもらった俺は、逃げるように一階の食事処に向かうのだった……
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...